浮遊戦艦の中で207



「糸だと? それは面妖な……」

「ええ。意図的な糸です。私には、その糸を手繰り寄せれば手繰り寄せて行くほど、何者かの淀んだ意思が感じられたのです」

 剣崎はそこで押し黙って一同を見つめた。

 剣崎ほどの年齢ともなれば、人の考えが様々な意思の集合体であることが見えて来ている。誰かが右を向けば右、誰かが左を向けば左と言った単純構造で出来ていないことはいうまでもない。

 だが、その単純構造でない部分を、意図的に単純構造に仕向けるために、外連味けれんみのある外的な要因を用意して単純構造にしてしまうおうとする力を感じてしまうのだ。

「これまでの出来事が、さも極自然な成り行きであるかのようですが、実はその裏には何者かの意図で描かれた脚本であるなどということは珍しくもないことです。それは、この私が軍略家だから言えることなのです。軍略家とは、戦わずして相手に勝つことを一番の目標とします。なぜなら、戦うことで消耗を増やし、その後の国家の運営の負担になることを避けたいという意思があるからです」

「ま、まさか……。では、あの肉食系植物らにも、そのような意思が働き出していると?」

「ええ、その可能性は否定できません。もし、この状況が私の考えと合致するのだとすれば、奴らに急激な知能の進化があったのだと考えるべきです。そして、その知能の進化は、余りにも特異的なものであるがゆえに、我々とともに道を歩んできた人工知能でさえ演算予測が間に合わなかったのだと考えられます」

 一同は、またもや深いため息と共に沈黙した。彼らも人工知能と同様に頭の中が混乱しているのだ。

「しかしですな、皆さん。ここに来るまで一つだけ理解し得た事実があります」

「理解し得た事実……? 何だねそれは。勿体ぶらずに話したまえ、剣崎君」

「ええ、では話すことに致しましょう」

 剣崎はそう言って、フーリンシアを始めとした技師チームを呼び出すと、何やら会議室の中央でやり始めた。

「ここに、こちらのフーリンシア大尉率いる技術班チームと私は、ある実験を行いました」

「実験だと?」

「ええ、実験です。不安という概念を注入することによって、新しい概念を生み出そうとする力を得る、という実験です」

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