浮遊戦艦の中で193




 その後、剣崎とフーリンシアが関係に至るまでには、大した時間を要さなかった。

 これが〝馬が合う〟というものなのだろう。フーリンシアは、一般的な考えを持つ人々から見れば少し変わった部類の人物である。

 いくら容姿に恵まれていても、それは容姿に限ったことであり、性格的に長続きするものではない。

 だが、彼らは違った。至る部分からパズルのピースがはめ込まれたように歯車が合ったのだ。



 一方、自らの陣を退いてまで復讐の念に駆られたリゲルデは、第二寄留〝ノイマン・ブリッジ〟へと無事帰還した。

 だが、この地はもう独裁者であるシュンマッハが治めるの王国である。リゲルデが、このような惨憺たる結果で逃げ帰って来た果てに、どのような怒りを買ってしまうものか想像するに容易いところである。

 リゲルデは、基地格納庫の通路に足を下した瞬間、部下たちの凍り付くような視線を一気に浴びた。

(フフッ……。俺は、この連中にひどくとち狂った命令を下したのだ。そういう意味では、この程度の仕打ちなど安いものだ。これがあのシュンマッハの政権下でなければ、俺は軍法会議にかけられるか、もしくは私刑リンチに遭っていてもおかしくはない……。それだけ逆に考えれば、シュンマッハのような男ですら利用価値があるということだ……)

 シュンマッハの独裁政権下においては、彼の一言によってすべてが動く。

 その中で事を荒立てればただで済むはずがない。たとえ正論を盾に異を唱えようとしても、たとえ倫理や法律を盾に悪事を裁こうとしても、それはすべてシュンマッハの鶴の一声で白が黒へと、黒が白へとひっくり返ってしまうのである。

(まさにあの男は、人間の〝不安〟を利用するのが上手い……。それはひとえに、奴自身が不安というものを胸の中にたくさん抱えている証拠だ。奴は、生まれてこの方、不安というものを人をたぶらかすことによって克服してきたに違いない。それで己自身の心の安寧を求めて来たのだ……)


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