浮遊戦艦の中で168



 ※※※


 マリダは、生まれながらにしての女王としての責務を果たすために、未だ交戦の止まぬ最前線へと戻る。

「セリーヌ中尉!! 二番隊は接近戦はやめて前方に集中砲火を!! フィダネル准尉の三番隊は、 二番隊の周囲に群がる敵部隊の掃討に当たってください!!」

 マリダは素体でありながらも、砲撃が冷めやらぬ敵の集中砲火の合間をまるで疾風のごとく駆けめぐる。

「へ、陛下、マリダ陛下!! ご無事で御座いましたか!?」

 セリーヌ中尉は、モニター越しにマリダの姿を確認するや、自機の肩にマリダを乗せて後方へと下がる。

 セリーヌが率いる二番隊の首尾はいまひとつかんばしくない。それもそのはずで、二番隊の戦闘指揮を執るセリーヌ・アルケウス中尉はこのエリートパイロット集団の中でも群を抜くほどの腕を持ち、女性ならではの細かい配慮が部下からの厚い信頼を得ている。とは言え、親衛隊の中でもまだまだ若手であって、ゆえに実戦経験が浅いために、今回のような特殊なケースでの戦闘に気圧けおされ気味なのである。

「陛下がご無事で何よりです。陛下御自身が出撃されて、しかも大分先行されたとうかがった時にはきもを冷やしました」

「はい、わたくしはこの通り無事です。ですが、サガウル殿が……」

「えっ!? サ、サガウル隊長が、どうかされたのですか!?」

「え、ええ……。大変申し上げにくいことなのですが。サガウル殿は、戦死されました……。こんな不祥なわたくしをかばうために……」

「な、なんと……!! あ、あのサガウル親衛隊長が、戦死を……!?」

「え、ええ……。とてもあの方らしい、それは見事な戦死でした……」

「隊長が……」

 言うに及ばず、親衛隊を率いていたサガウルの人望はそれ相当なものである。

 生前のサガウルは、自身に対しての鍛錬もさることながら、後進に対しての教育にも並々ならぬ時間を費やしていた。

 そんな親衛隊の大黒柱の訃報を耳にすれば、彼に恩義を感じる部下への衝撃は尋常なものではない。



 

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