浮遊戦艦の中で155


 ※※※


 閃光が走る。

 幾重にも広がる光源の向こう側に、いくつもの命のが消え去って行く。

 リゲルデは我を忘れて走った。年甲斐もなく力任せに走った。戦闘指揮はすべて下士官に任せ、艦内の複雑怪奇に作られた通路を器用に伝い、思いの限り前方にある甲板まで駆け抜けて行った。

 そして息せき切らしながら、爆発などの衝撃で歪んだ分厚く重い扉に体当たりをぶちかまして船外に飛び出すと、

「シャ……アマンダ!!」

 彼は、暗闇の中にぽつりぽつりと浮かぶ力尽きた人の姿に向かって駆け寄って行く。

「ああ、なんてことだ……アマンダ!!」

 アマンダ・シャルロッテ。その妖艶にして美しい姿は、の面影からはとても似つかわしくない壊れたマリオネットさながらの様相である。

 リゲルデは、なぜか涙が止まらなかった。年季の入ったしわだらけの瞳から、止めどなく涙が溢れ返っていた。

「だからあれほど言ったはずだ……」

 かねてより、彼は周囲の者に人間至上主義を訴える堅物として通っていた。だが今は得も言われぬ喪失感に苛まれ、人を人と思わぬ狂った作戦を遂行しながらも、一体のアンドロイドに対して多大な悲しみに暮れるしかなかった。

 ピクリとも動かぬ腕。ピクリとも動かぬ肩。ピクリとも開かぬまぶた。そして、ぼそりとも言葉を発せぬ赤く膨らみのある唇。

 そのひとつひとつの部位に彼は思い入れがあり、そしてその部位を良く知っていた。

 彼女の豊満な胸の辺りから、まだどくどくと黒く熱を帯びた酸化オイルが流れ出している。

「ドールの急所である胸の中枢機能回路を一突きとは……」

 


 

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