浮遊戦艦の中で109


「カミンスキー大尉。そのように言っていただけるこの私の方こそが幸せ者で御座います。矛盾を承知で申し上げますが、何卒ご自愛なさって下さるよう……」

「ハッ、重ね重ね勿体ないお言葉。今あった事を申し伝えれば、情報部一同もきっと感慨に浸り込むことで御座いましょう」

 大尉は、満面に感極まった表情をすると、そのまま一礼をして参謀室を去った。

「陛下。どうやら陛下の神通力は未だご健在のようですな」

 剣崎大佐は、半ば感心したようにマリダの方を見やると、

「ええ、こんな機械人形のわたくしでありますのに……」

 マリダは、少しばかり困惑した面持ちで大佐を見返す。

「失礼ながら、それはご謙遜に御座います、陛下。ここに集う一同は、陛下のここまでの足跡によって得た人望に惚れ込んで付いて来ております。ただ、悪戯に時を過ごしておるわけでは御座いません」

「それは失礼なことを申してしまいました。つまり、このようにいちいち一歩引いてしまうと、返って皆様を愚弄することになってしまうと……」

「仰せの通りに御座います、陛下。我々一同は、陛下がどのような方なのかを理解しております、ですから、これからは毅然として、上から物を仰って頂いた方が……」

「そうですか……。それは困りましたね。わたくしは、この世界に作られて以来、このような話し方しか……」

「慣れて下さらないと困ります。これからの戦いは厳しいのです。現に、先ほどの情報部からの話によりますれば、第二寄留近くの巣穴から、肉食系植物らの群れが一様に飛び立ったと」

「ええ……。ということは、恐らくこちらへの討伐編隊が動いたということになりますね」

「御意。あのクーデターを起こしたビルシュテイン・シュンマッハという男は、かねがね何かを画策するに十分といったほどの不安定な人物で御座いました。この剣崎が、そういった不穏な動きを察知した時には最早遅く、陛下のお命をお救いし、気骨のある者らをより集めるだけが精一杯で御座いました。それだけに、彼奴きゃつめが迅速に討伐隊を編成して仕掛けてくることは必至……」



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