浮遊戦艦の中で92
(ば、馬鹿な……!?)
正太郎は言わずもがな背中を強打した。そして、半ば意識を失いながらも無意識に右腕を延ばし、窓枠の
彼の身体は勢いで顔面から全身を分厚いガラス窓に叩きつけられたが、何とか紙一重で指が桟に引っ掛かったままの状態に保てていた。
(だ、大丈夫!? ショウタロウ・ハザマ!?)
エナは必至で彼に呼び掛けるが、
「あ、う……グググ……」
彼は声にならない声でそれに答える。
たとえ仮想空間であろうとも、ここに生きる人間にとって、これは現実と同じ痛みである。どんなに羽間正太郎が百戦錬磨の戦士であったとしても、それは他の人々と同様である。
しかし、巨大子猫はそのような状況を鑑みるでもなく、また突然火の着いたねずみ花火のように無邪気に暴れ出したのである。
「みゃおーん!!」
もうこうなれば、誰が止められるでもない。誰が手名付けるでもない。ただ街が破壊尽くされて行くのを手をこまぬいて見守るしかない。
プラカードや横断幕を掲げたおびただしい数の人々は、その光景を黙って見ていた。あのオレンジ色のヘルメットをかぶったサラリーマン風の男も、その人々の中心に立って何も言わず巨大子猫の破壊し尽くす光景をボーっと見つめている。
「に、逃げろ……。早く、逃げねえのか……てめえら」
正太郎は、桟に手を掛けたまま意識を取り戻しつつあった。しかし、その階下に起きるその光景は、悲惨な殺戮劇そのものである。
巨大子猫に、それ相応の悪意がないのにもかかわらず、街は細かい隕石が幾度も振り落とされたように転々とクレーターを生み、そしてその衝撃波で高層の建物や網の目のように広がりを見せるハイウェイやらが豆腐を崩したように脆く崩れ去って行くのだ。
(止まらない、止まらないわ、ショウタロウ・ハザマ……)
エナが悲壮に満ちた声で呼びかけてくる中を、その崩れて行く街の残骸に圧し潰されて行く人々の悲鳴が、彼の耳の穴に同時に飛び込んでくる。
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