浮遊戦艦の中で90


「へへっ、皮肉なものだな、エナ。奴が憧れていた人間に近くなるって行為たあ、時に理不尽な感情を抱いちまうってことと同意なんだからな」

 正太郎は、野次を飛ばす連中を尻目に、言葉を鼻で笑い飛ばして吐き出す。

 するとエナは、

(そうね、どうあっても人間は完璧じゃない。どうあっても人間は完全無欠で合理的な考えを持続出来る生き物じゃない。時にはそんな理不尽な感情を抱いてまでも、好きな人を奪おうとしたり、生き延びようとしてしまう……。このあたしみたいに……)

 何とも意味ありげに言葉を返す。

「何だそりゃ? このあたしみたいに、ってどういうこった?」

(それは……その。その言葉の通りよ、ショウタロウ・ハザマ。ねえ……あなた。フドウバナって人を覚えていない?)

「フドウバナ……? えっと、どこかで聞いた風な名だな……。あっ!! フドウバナと言やあ、あのフドウバナのフーちゃんか!?」

 正太郎のは、彼の脳裏に突如電流が走った。フドウバナとは、この浮遊戦艦に潜入する前に関係を持った元特殊87部隊のエージェントのコードネームだからである。

(そう、そのあなたの言うフーちゃんという人……。その人ね、あたしがあなたに接触するように仕向けたの。あたしがあなたと出会えるようにするために……)

「な、何だと……!? じゃ、じゃあ……」

(ええ……。彼女、フドウバナさんは、あたしが世界中に蔓延はびこる浮遊戦艦の中から偶然見つけ出した女性――)

「何だと……!?」

(あたしはね、あなたを見つけたいがために、この三次元ネットワークで繋がっている全ての仮想世界を渡り歩いた。でも、こんなに多種多様に膨大な広がりを見せる電脳世界から、あなたの本体を見つけ出すことが出来なかった。だから……)

「だから……?」

(偶然に巡り合えた、あなたに興味を示している人々に手あたり次第接触した。そう、ショウタロウ・ハザマ。ついさっき、あなたに出会った時のように、まるでこの世の者でない幽霊が生身の人間に接触するみたいにね……)


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