浮遊戦艦の中で㊻


 ※※※


「おい、エナ! 何だ、何なんだ、この騒ぎは!?」

 正太郎はエナの後ろ姿を追いながら、今、目の前で起きている状況に唖然とした。

「驚くことではなくてよ、ショウタロウ・ハザマ。これはね、ここに起きている状況はね、浮遊戦艦の中にある巨大人工知能が、ここに眠っている人たちに見せている世界が混乱した状況なの」

「世界が混乱した状況だと!?」

 何と、正太郎たちの目の前では、いかにもと言った具合で街の建物や道路などがぐちゃぐちゃに破壊されている。

「こりゃあ、まるで怪獣がまかり通った跡みてえだな……」

 正太郎が、半ば冗談交じりに言葉を終えると、

「いいえ、その例えは逆。その言葉こそが正解なのよ」

「何? 正解だと!?」

「ええ、正解よ。これはね、この街のど真ん中を巨大怪獣がまかり通った跡なの。あなたが今言った通りの現象がここで起きたのよ」

「な、何言ってやがる!? だって、ここで見せられているってのは、俺たちの相互的な記憶をなぞっているだけのものなんだろう? なのに、なんでこんな俺の記憶にもねえ現象がここで起きているんだよ!?」

 正太郎が、口角から飛沫をまき散らすほどの勢いで、エナを問いただすと、

「あら、あたし言い忘れたかしら。この偽りの世界はね、何も今まであった現象をただなぞるだけなのではなくてよ。その、あなたたち囚われた人間の記憶に現実に起こった内容を加味して、巨大人工知能が見せたいシチュエーションに再構築することも出来るのよ」

「何だと……!?」

「ほら、あなたがこの巨大な浮遊戦艦の中に囚われる前に、赤くて大きい怪獣みたいなフェイズウォーカーと戦ったりしたじゃない?」

「あ、ああ。確かにな……。それで、イーアンはあの世に行っちまった……。そんなこともあったっけな……」

「それよ。そのあなたの記憶から、この巨大人工知能は〝人類に見せたい最悪な困難〟という状況をピックアップして、それをみんなの脳にシチュエーションとして直接見せているのよ」

「な、何ぃ……。それじゃあ、この巨大人工知能ってのは……」

「そうよ。そうやって、新たなる人類への困難を何度も与えることによって、巨大人工知能自体がそのケーススタディと、新たなる発想を得て行くシステムなの」

「てえことは……つまり、ここに囚われた連中ってのは、永遠の楽園を手に入れるどころか、恒久的な困難の実験台にされちまっているってことなのか!?」



 

 

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