浮遊戦艦の中で⑳


「な、何なんだよ。お前、急に……」

 正太郎はジッとエナの瞳を見つめた。どうやら彼女が嘘をついている様子でないことが分かる。

「ねえ、ショウタロウ・ハザマ……。今のあなたはね、記憶の逆向によってその後の記憶を封印しているだけなのよ」

「記憶の封印? なんだそりゃ」

「うーん、つまりね。早い話が一時的に記憶喪失になっているみたいな感じかしら。今現在、あなたがそうした若い時分の姿でいることによって、その記憶もそれまでの時分とリンクしているというわけ。だから、実は知っているはずのあたしの存在すら、まだ未知のものとして認識してしまっている状態なの」

「なんじゃそりゃ? それじゃあ、俺ァ以前からお前と知り合いだったってことなのか?」

 言われてエナは、寂しい表情のまま、

「そうよ。あなたはあたしの命の恩人であり、そしてあたしもあなたの命の恩人なのよ。だからあたしはあなたを三年もの間探し続けた。このでしかないこの世界の中をね」

「そ、そんなぶっ飛んだ話をいきなり言われて、はいそうですかって信じられるものか! 確かにお前は普通の人間じゃねえことぐらいは分かるが、だからってそれとこれとは別だ。別次元だとか、時間軸だとか……」

「ううん、そうね。それはそうよね。なら、分からせてあげる。そうね……今、何時かしら?」

「え? 何時かって、そりゃあもうすぐ夜中の十二時を回るところだが……」

「なら話は早いわ。そう……もうあと少しで何をあたしが言わんとしているのか分かるはずよ」

「何だと……? もうすぐわかるだと?」

 エナは、未だに悲しそうな表情を崩さず、うつむいたまま正太郎から目を逸らせていると、

「う……な、何だ!? この振動は!? やけに外が騒がしいぞ!!」

 その時、古びてはいるものの頑強なだけが取り柄のマンションの建物自体が不自然な揺れに包まれた。 

「そう、時間ピッタリだわ。いえ、それは当然のことよね」

「な、何を言っているんだ!? 時間ピッタリって何だ!?」

「これが当然なのよ。何しろ、今の夜中の十二時の時報が鳴ったと同時に……あることが起こるんですもの」

「あることが起こるって何だ!? 一体何が起こるって言うんだ!?」


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