浮遊戦艦の中で②


 正太郎は怪訝な眼差しで師を仰ぐと、

「なにも驚くことはない、羽間正太郎。お主は元々が商人だ。そんなお主ならば、わしが申しておる言葉の意味が分からぬはずがない。しかして、人は言葉のみで語る生き物ではない。目でも語れば仕草でも語る。肩で物を申せば背中で人生の何たるかまで語ってしまうという何とも奥深い特性がある」

「ああ、それはその通りだ。確かにそれが出来ねえと、交渉なんて百年経ったってまとまらねえからな」

「うむ。しかり、それが肉食系植物ともなれば一切の言葉など持たぬ。その流れや雰囲気すら読み取ることが出来ねば、気配だけで奴らが何を求めているかを知ることが出来ぬ。しかし、お主はその才覚がありながら、その目を閉ざしたままなのだ。それでは凶獣どころか、この世界の蟻の子一匹すら打ち倒すことすら出来ぬ」

 ゲネックは、腕組みをしたまま正太郎を説き伏せる。このような命懸けのスパルタ訓練と、ゲネック・アルサンダールの独特の理論にピタリと付いて来られるのは、何を隠そう彼の経験上、羽間正太郎ただの一人のみであった。それだけにゲネックの教えにも更なる熱が入る。

「羽間正太郎。次は二体同時に相手して見せい。わしがこのベムルの実で凶獣どもをおびき寄せる。お主はそれが来たところを全て倒すのだ。ただし、射撃武器などの遠隔系統は禁止だ。近接武器のみで戦うのだ。よいか、これは実践でもかなり手強い難易度だぞ。心してかかれい」

 ゲネックはさらりと言いのけるが、

「お、おい、おやっさん、ちょっと待ってくれよ! 一体のヴェロンだってままならねえってのに、二体同時なんて無理に決まってんだろ! いくら何だって少し厳しすぎやしねえか!? それに命の保証だって……」

「たわけ!! 泣き言を申すな!! 主の力はその程度のものか!? 良いか。お主はこれからというこの弱肉強食の地で様々な苦難を乗り越えて行かねばならん。いくらお主に人より秀でた才覚があろうとも、それを開花させねばそれはただの形骸に過ぎぬのだ!! 儂はそのようにただ漫然と朽ちて行く種を放っておきたくはない!! さあ、儂の熱い期待に応えたくば、今ここでそれをやってのけて見せい!!」

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