フォール・アシッド・オー⑥




「いつ見ても凄い迫力……。これがデュバラさんの融合種ハイブリッダーの姿……」

 小紋はアルミニウムで出来たゴンドラの中から彼の姿を確認した。

 彼女がデュバラに命を狙われた時点では、融合種ハイブリッダーの存在は他に確認出来なかった。しかし、あれから一年も経過すると、世界のところどころにその存在が世間一般に知れ渡るようになり、いつしかアラブ圏を中心とした軍隊などで訓練を受けた融合種の存在が広く確認されるようになっていた。

 とは言え、デュバラのように筋骨隆々で、天をも突き抜けんばかりの見事な羽が生えた融合種は他に見たことがない。それに、あのクリスティーナは惚れ込んでしまう程のデュバラの精悍な姿顔立ちは、融合種に変化した後にもダイレクトに投影されている。つまり、どんなに融合種となっても変身前の素材の良さが決め手となると言えるのだ。

(デュバラさんは言っていた。自分のあの姿は、人間たる自分のポテンシャルと肉食系植物のヴェロンの力と百戦錬磨の人工知能〝パールバティ〟の知恵の三位一体によって構成されているんだって……。ということは、いくら融合種だからって全てが強いとは限らないんだよね。それだけに、人間以上に個体差が生じてしまうんだって言っていた。でもどうなんだろう……。こんな真夜中に敵と遭遇してしまえば、いくら融合種だって……)

 小紋は不安を抱えつつも、頑丈に出来たゴンドラの中に静かにうずくまった。

 こうなればデュバラに身を託すしかない。まして天高く舞い上がってしまえば、ただの人間である彼女に何も出来る事はない。彼女がその身を賭けて作戦行動に移れるのは、あのピンクの城の先端に設えられている電波塔の出入り口に取りついてからだ。

 彼女がそう考えを巡らせていると突然、

「うわっ……」

 つい声が出てしまう程にグイとゴンドラが持ち上がった。この何ともこの上ない頼りなげな浮遊感は、何度味わっても慣れるものではない。彼女は思わず、

「羽間さん、羽間さん……」

 誰にも聞こえそうもない声で、そう心の声を叫んでいた。



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