神々の旗印168


 かつて羽間正太郎の研究を行っていたエナ・リックバルトは言った。

「あなたは、この私たち人類にとってとても必要な存在。インターフェーサーなの」

 と。

 そして今現在、彼の目の前で起きている現象もまた、そのインターフェーサーと密接する関係にある事象でもあるのだ。

「この俺が何かに関われば、それが後でとんでもねえ流れの発端になっちまうってえ発想かよ。昔から、風が吹けば桶屋が儲かるとは言うが、その原因の一つにこの俺が関わっているからって話なのか……?」

 正太郎は少し首をひねって言葉を置くが、とは言え確かにそれは今に始まった話ではない。

 彼の無二の相棒である人工知能〝烈太郎〟も、彼女と相変わらぬ特別な進化を遂げている。イーアンの相棒だった人工知能マーキュリーも、最後はあのようにその身の犠牲を払ってまで正太郎らを救った。

 彼ら人工知能に進化する何かの要因が隠されていたとしても、羽間正太郎という鍵となる存在に出会わなければ一向にそう言った筋道を辿ることは無かったのかもしれない。

「これが自然の成り行きだと言うのなら、勇斗……。てめえもそこに居る限り自然の成り行きに関わった生き証人だ、今後の人類の未来を左右する役割の一人だってことだ。今は、この俺という一人の男よりも、てめえという存在の方が重要な鍵を握って居るんだぜ……。いいか? 気を引き締めて行けよ」

 これは最早、若い二人の痴話喧嘩のレベルを超えた重大な意味を持つ出来事であるのだ。

 これまで百戦錬磨を誇る正太郎ですら未来を予測することの出来ない極めて予測不可能な出来事なのだ。

 正太郎は、どちらを応援することも出来ない。だからと言って、どちらに肩入れすることも出来ない。彼らの雌雄を決した内容によって、今後の人類の行く末が決まってしまうのだから。

 

 勇斗は、地面にめり込んだ頭をもたげてゆっくりと立ち上がる。

 その表情はボロ布のようにほころび掛けた黒頭巾によって見ることは出来ない。がしかし、余程の醜悪を絵に描いた雰囲気を醸し出している。

「いいよ、良い感じだよ、早雲……。お前がその男の肩を持つと言うのなら、俺は全力でお前をぶっ壊す! そして、この世界に完全なる終焉をもたらしてやる……」


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