神々の旗印㊼
「しかしな、マドセード、エセンシス。俺ァ、この数か月間、あの戦乱以前とはまるで価値観の狂っちまったこの世界の常識を目の当たりにしてきたんだ」
「ああ、この間、背骨折りさんが話していた〝虹色の人類〟とやらの話だすですね?」
エセンシスが相づちを打つ。
「そうだ。その他にも、影で暗躍していた〝黄金の円月輪〟が表立って来たことや……」
「それは、背骨折りのお師匠だったゲネック・アルサンダール隊長が所属していた組織のことでゲスね?」
岩男のマドセードも言葉を挟む。
「そう、その通り。俺ァ、世間で言うところの、あの〝黒い嵐の事変〟以来、何度も命を狙われ、何人もの連中にこの命を救われてきたんだ。その間、俺たちの生きてきた常識では考えられねえ物ばかりをこの目で見て来たんだ。まるで常識ではないものばかりを、な……」
「と言うことは、背骨折りさん。今回のあのお嬢ちゃんの言っている事も、全て肯定出来るとでも言うだすですか?」
「いいや、それは分からねえ。ただ、あのジェリーの姿をした〝黒塚勇斗〟という人物照合の裏は取れている。どうやら奴が、ここの軍隊の新鋭部隊所属の隊長だったことは本当の話らしい。いや、話だけなら当たっているとでも言うべきか……」
「そうでゲスね。いくらそういう内々の話の辻褄が合っていたとしても、どこぞの内務調査部や監察室が絡んでいれば、そんな話だけならいくらでも言えますよってな」
「そう言うことだ、マドセード。しかもな、もし、奴らが〝虹色の人類〟に関与していたとしたら、それだけで情報を完全コピー出来るって寸法だ。まだまだ油断は禁物って事よ」
正太郎はそこで一度言葉を切る。ここが軍事キャンプ内にある談話室であるだけに、あまり長々と聞かれてはならないことを話しているわけにはいかない。
しかし、マドセード、エセンシス兄弟は一度顔を見合わせると、雑多なテーブルの上に互いの大きな体を乗り出して正太郎に言い寄って来た。
「なあ、背骨折り。あっしらは、昨日の大惨事で多くの兵隊を失ったでゲス。そして、あのイーアンもあの通り、復帰がいつになるか分からねえ状態でゲス」
「そうだすですよ、背骨折りさん! それだけに、パイロット不足は深刻だすです!」
兄弟は揃いも揃って迫力のある顔を、まるでリゾート海岸に打ち上げるの高波のように覆いかぶせると、
「奴と嬢ちゃんの面倒は、背骨折りに任すでゲス!」
「アイツとお嬢ちゃんの訓練は背骨折りさんがやるべきだと思うだすです!」
と言って来た。
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