神々の旗印㊺
何と大胆な事の運びだろう。何と強引なのだろう。どうやら目の前の美少女は、瞬時に腕一本力尽くで装甲に穴を開け、腹部の中枢機器をぐちゃぐちゃに破壊してしまったようである。あの手裏剣のように投げつけた鋼鉄板は、その為の布石だったらしい。
正太郎は、背筋にゾッと冷たいものが通り過ぎるのを感じた。
(確かに彼女の言う通り、この娘は戦闘マシン由来の人工知能なのかもしれねえ……。さっきのは人間と違って、目的以外に何のためらいもねえ感じだった。しかし、それよりもよ。この素早さとパワーは何なんだ……? 特殊合金製の装甲を素手でぶち破れるぐらいの肉体なんてスペシャルマンじゃあるめえし、とても今までの常識じゃ考えられねえぜ……)
確かに朱塗りのフェイズウォーカーは、彼女のお陰で起動を停止した。だが、それ以上に危険な何かを感じざるを得ない事件だった。
正太郎は、生き残った兵士たちに指示を与えながら、今後の展開を考えていた。
傷ついたイーアンの負傷具合は深刻だった。身体の表面は至るところが焼けただれ、全身の殆どの骨に異状が見られていた。内臓への傷つき具合による出血もただならぬものであった。だが、その他に……
(奴め……。こんなに
正太郎には全く伝えていなかった病床具合が、この深刻な怪我のお陰であからさまになったというわけだ。
この時代においても、癌はまだ不治の病だった。彼らのようなネイチャーでるならば、なおさらである。
「イーアンには、背骨折りには黙って置くようにって言われていたでゲス……」
「イーアンさんは、背骨折りさんに心配をかけたくなかったのだすですよ……」
マドセード、エセンシス兄弟と彼の病床を見守る中、正太郎はただ黙って奥歯を噛み締めるしかない。
そして彼らは、七尾大尉ら整備部隊が居を構えるキャンプ内へと揃って足を運ぶ。
するとそこには、整備部隊の隊長七尾大尉を始めとした精鋭たちと一緒に、あの黒髪の美少女――早雲と、その陰に身を潜めるかのように突っ立っているジェリー・アトキンスの姿があった。
正太郎は腰のホルスターに手を当て、何かあった時に対抗できるように心構えた。
「あ、ハザマさん。い、いえ、ハザマ少佐。今、わたし、この中を七尾大尉さんと一緒に調べてみようとしていたんです」
彼女らは、先日捕らえた朱塗りのフェイズウォーカーの残骸の前で語り合っていた。
その時、何故か早雲は明るかった。きっと彼女も生粋の戦闘マシン寄りの人工知能だけに、人間の命の概念などとはどこかがずれているのだろう。これだけ人の命がゴミのように蹴散らされてしまったというのに。
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