神々の旗印㉝


 正太郎は一瞬血の気が引いた。

 何を隠そう七尾大尉の言う青年兵とは、言わずと知れたジェリー・アトキンスの事を指す。

 そう、目の前の七尾大尉が言う通り、その写真の中には、あのジェリー・アトキンスに瓜二つの男の姿が映り込んでいるのだ。

「こ、これは!! これはどういう!?」

 大きな目をひたすら大きくして驚く正太郎。彼は言葉を失い、その場に茫然と立ち尽くした。

「少佐殿が驚くのも無理もありませんて。この私とて、先ほどから手の震えが止まりませんでな。これこの通り……」

 七尾大尉は、しわくちゃのごつごつした手を見せつつ首を横に振る。

「しかし大尉? この写真が、偽造だとか何かのトリックが使われた可能性も考えられませんか?」

「いや、それは完全には言い切れませんが、しかし……、その写真は確かに二十年前に私が部隊の仲間と一緒に写したものに間違いごさりません。あなたを騙すのに、わざわざ二十年前から仕掛けようなどと誰もが思いますまい」

「ええ、確かに……。だけど、確かにここに映り込んでいるのは、ジェリー・アトキンスに間違いない。瓜二つとか、他人の空似だとかいうには度を越し過ぎている」

「私もね、少佐殿。あの青年が私の前に現れた時、どこかで見たような気がして、どうにも気になっておったわけですよ。そこで、私のこの記念アルバムをめくってみたわけですわ。そしたら、まさか二十年前の写真に彼奴きゃつめが写っておるではないですか……」

 七尾大尉は、彼の体の半分ぐらいの大きさもある分厚い装丁のアルバムを抱え込んでいる。

「それで大尉。大尉は、奴と同じ部隊だと仰いましたよね? その頃、何か付き合いがあったとかの記憶とかは?」

「それがその……、その写真は、私がその部隊を異動する前に、記念に撮った写真でしてな」

「ということは、さすがに話してもニ、三、言葉を交わしたぐらいだと?」

「え、ええ……。ただ、やけに物静かな雰囲気と、その反面、まだ試作段階とはいえ、フェイズワーカーを自在に操る技術には、その頃の私の部下たちも舌を巻いておったわけですわい。それだけに、妙に印象に残っておったのかもしれませんな」

「なるほど。どうやら大尉の話からしても、この話が夢幻ではないような気がする……。じゃあ一体、この写真のジェリーと、俺たちの知っているジェリーと、今現在目の前で戦っているジェリーは、どんな関係だというんだ……?」




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