虹色の人類130


「ふうむ、実に愚かじゃ。実に今回の猿共も愚かじゃのう。信じるも信じまいも、それが現実なのじゃて。全く、このような感情のみに流される知能の低い猿共に対して、兄上はどうして未だこだわり続けるのじゃ。ほんに困ったものじゃて……」

 少年の姿をした男は、方天戟の上で何やらぶつくさと愚痴のようなものを吐いている。

「兄? 兄上? しょぼくれた爺さんのアンタに、お兄さんなんかいるのかよ!」

 ジェリー・アトキンスの姿をした男が尋ねる。すると、

「ああ、おるよ。神の名を欲しいままに、お主ら人類の動向を好き勝手に陰から操る愚かな兄上じゃがな」

「な、なんだって!?」

「その名もペルゼデールなどと名乗っておる。そしてまたの名を……」

 方天戟に乗った少年がその名前を言おうとしたその時、

「なんじゃ!? この振動は!? 一体何が起こったんじゃ!?」 

 突然、坑道に地鳴りが響きまくったかと思うと、瞬く間に辺りが火の海に包まれた。

「ば、爆発が起こったんだ! どこか、この坑道の中で爆発が起きたんだ。早くここから抜け出さないと、みんな丸焼けになっちまう。さあ、早雲! 逃げるんだ!」

「は、はいっ……」

 突如巻き起こった火煙と地鳴りの連鎖から、これが何らかの爆発による火災である事が容易に知ることが出来た。

 この場所で対峙していたジェリー・アトキンスの姿をした男と、黒髪の美少女。そして、フェイズウォーカー方天戟に搭乗した少年らは、一斉にその場から離散した。


 その光景を陰から窺っていた正太郎は、

「どういうこったい? なんか、とんでもねえ物見ちまった気がするぜ……。しかし、あの女の子と言い、ジェリーの野郎と言い、何が何だか訳が分からねえぜ。それに、あの方天戟に乗った青二才も異様だったな。見た目はどう見たって十五、六のガキんちょだってのに、やたらじじむせえ言葉でなんたら喋りやがる。それに……」

 それに彼が一番気になったのは、あの少年が吐いたペルゼデールという名の言葉だ。

 なぜあの少年の兄がペルゼデールなのか? 一体、その後に何を言わんとしていたのか? 果たして彼が言っていた事は真実なのか? 

 正太郎は考えあぐねたが、この燃え盛る炎を見るや、

「おっと、こうしちゃいられねえ。俺も早くここを出ねえと、俺までもが丸焼けになっちまう……」

 と、そう言って体勢を立て直し、その場を去ろうとしたその時、

「な、なんだこりゃ? この炎……、ちっとも熱くねえじゃねえか!?」


 

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