野望の114

「おい烈!! 余計なことすんじゃねえ!! テメェの気持ちは有難てえが、それじゃあテメェの方が参っちまうだろ! 今の俺たちは一心同体だ。バランスが崩れればそこでお仕舞いだ!!」

 正太郎はそう叫びつつも、バランスを崩す原因が自分にある事を悟っていた。生身の人間で生き抜いてきたことに多少の誇りの様なものを覚えていたが、今の今に至っては全ての限界を感じざるを得ない。  

(これが俺自身の抱える驕りなのか……!!)

 何不自由なく五体満足な体と身体能力、そして類稀なる頭脳を宿して彼はこの世に生を受けた。それは彼にとって当たり前のことであり、何の疑問もなく受け入れてきたことだ。

 しかし、この世の中には彼と比べ物にならない弱き人々が大半を占めている。そういった人々が、最新のテクノロジーに夢を託し、人生を謳歌しようとヒューマンチューニング手術に傾倒していった。

 そして何より、このヴェルデムンドという野蛮で命懸けの世界に生活の拠点を設けることは、このテクノロジーがあっての発展であることは否めない。

 そんな背景を知りながら、彼は反ヴェルデムンドを掲げ、ヒューマンチューニング手術計画の強制施行を拒んだのである。それは単に、彼のような生物的に恵まれて生まれてきた者の驕りだと言わざるを得なかった。

(だから俺は、そういった物の選択権を勝ち取ろうとした……。それが人類にとって余計な事だったとでも言うのか!?)

 こんな話を聞いたことがある。人類は、その集団こそが一つの生命体であると。

 もし、本当にそうであったなら、羽間正太郎は人類にとって悪しき疎外物である可能性が高い。これから人類が頑強に生き延びようと、様々な人びとが叡智の集結を凝らした策を投じ、目的に邁進しようとした。その矢先、自らの能力に甘んじて難癖をつけて戦争を仕掛けたのだ。彼は、そんな傲慢で自己中心的な考えの男に過ぎないのだろうか。単なる面白半分に生き残りゲームに興じている奇妙奇天烈な存在でしかないのだろうか。

「俺ァ、そんなことで戦って来たんじゃねえ!! 俺ァ、そんなちっぽけな理由で戦ってきたわけじゃねえ!!」

「あ、兄貴! いけないよう! 今、そんなこと考えちゃダメなんだよう!!」

「何っ!?」

 正太郎は、烈太郎に声を掛けられハッとした。だが、時はすでに遅く、自ずと集中力を欠いたことで一体のヴェロンを撃ち漏らしてしまった。その瞬間、大振りのヴェロンが烈風七型の肩口に体当たりをぶちかまし、機体が大きく反転する。

「うわぁぁぁぁーっ!!」

「ぐぅぅぅっ!!」

 烈太郎は咄嗟にロケットノズルを全開にした。だが、何とか体勢を整えようとするが勢いが止まらず、大きく口が開いた窪みに機体を落とし込んでしまう。

 


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