野望の100

 それは正に電光石火。正太郎主導で操縦する烈風七型の機体は、四方八方から飛来する弾丸をまるで迷路に流し込まれた水流のようにスイスイと角度を自在に変えながら避けて行ってしまう。

 そこで待ち受ける最新式フェイズウォーカー・クイーンオウル。彼らの白兵戦用武器、ソニック・ガ・ジャルグという振動式長槍が唐突に突き出されたとしても、

「なんの!」

 正太郎はレーザーソードでそれを薙ぎ払い、もう一方の腕をクイーンオウルの首に引っ掛けて反動を活かしながら、

「そりゃ!」

 という掛け声とともに頭部をぐるりとねじ切ってしまう。それは戦闘速度で力の乗っているが故の荒技である。

 頭部を熟れ過ぎたヘチマのように引きちぎられたクイーンオウルの機体は、すぐさま方向感覚を無くしホバー機能の調節が上手く行かなくなってしまう。それゆえ、その場にズデンと半回転しながら転倒する。そこのところを正太郎はすかさず抑え込み、

「えい!」

 とばかりに胸の辺りにある人工知能ボックスにレーザーソードを突き立てる。

「へへっ、例え新型のフクロウの女王だろうとも、中枢がやられたんじゃあどうにも形無しだな、なあ烈よ。要するにここの違いなのよ、ここの!」

 正太郎は逞しい右腕を左手で叩いて見せた。

 彼がこんなに手際が良いのは今に始まった事でなはい。これを目の当たりにしている烈太郎が、

「兄貴だけはどんなことがあっても敵に回したくない……」

 と唸ってしまう程の恐ろしさがある。

 性能的な話で言えば、生身の人間である正太郎よりも、こういった瞬間的な演算能力は人工知能である烈太郎の方が遙かに上を行く。にもかかわらず、どういうわけか実戦で調子が乗って来ると、正太郎はとても手が付けられなくなってしまうのである。その理由を強いて上げるならば、まるで自らが描いたシナリオの筋をなぞっているかのように、これから起こる出来事の先々を見越して動いているからである。

 端的に言えば、人工知能である烈太郎の演算処理能力は、事が起きてから高速度に対処を行っているのに対して、正太郎は相手が事を起こす前から相手を誘導している状態なのだ。

「これじゃまるで、みんな兄貴の手の上で踊らされているようなもんじゃないか……」

 烈太郎は思わずつぶやいてしまう。

 事を起こす先々で時間や空間さえも支配する。そんなことは到底科学的にあり得ない。そんなことは分かっていても、烈太郎は毎度毎度こういった場面を目の当たりにしてしまうと、恐怖にしか感じられない。

 かつて烈太郎は、烈風七型――いわゆる烈太郎を製作した主任責任者の桐野博士にこんなことを言われている。 

「お前がこれから相棒として出会う男は、今後の人工知能研究にとっての最重要人物の一人だ。烈太郎、お前はその男にとことん付いて回って沢山の良いデータをありったけ頂いてくるのだ」

「頂いて?」

「頂くと言っても、どこからか物を盗んでくるのではない。彼と戦場を共にし、そのケーススタディを取り込みまくって来いという意味だ。いいか、分かったか? 頼んだぞ、我が愛しい息子よ……」

「うん分かったよ、お父さん……」

 烈太郎がこの世に人工知能として生み出された直後の話である。

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