野望の98
「理由? なるほど理由か。確かに烈、テメェの言う通りだ。俺の命を狙う理由は大いに必要だな。しかしそれなら考えるまでもねえ、簡単なこった」
正太郎は、送られてきたデータ画面をまじまじと見つめながら答えた。烈太郎は、そんな彼を呆気にとられたままの声色で聞き返す。
「え? じゃあ、兄貴はもう理由までも分かっているの?」
「ああ、そりゃもう十分すぎるほどにな。まあ、簡単にそれを一言で言い表すのなら、そうさな……アイツの意地ってところだな」
「意地?」
「ああそうだ、意地だ……。そして、奴に尽きることのねえ意地があるように、この俺にも曲げることが出来ねえ意地というものがある。この俺がこれまで生きてきて必ず貫き通している絶対的な意地がな。それが……」
「それが?」
「相手の期待に必ず応えようとする意地のことさ。エナ流に言いかえれば、それが俺の生物的な役割りってところなんだろうからな……」
正太郎の心の中に、あのエナ・リックバルトらが言っていた〝インターフェーサー〟という言葉が思い浮かんだ。この言葉は、彼女が掲げる役割論の中に提示された一つの役割りを持つ者を総称するものである。エナ・リックバルトは羽間正太郎という人物をして、そう言った役割りであることを定義付けて彼自身をそう呼んでいた。
「でも兄貴ぃ! それじゃあ、エナちゃんが兄貴の命を狙う理由にはならないじゃないか!?」
声を張り上げてまでエナを弁護しようとする烈太郎に、
「バーカ、何言ってやがんでい。どこのどいつが、エナが俺の命を狙っているだなんて言ったよ?」
「えっ?」
「俺の命を狙ってんのは――」
正太郎が言葉を発しようとしたその時、
「おっと危ねえ!!」
いきなり弾丸が烈太郎の機体をかすめた。その弾丸は、これまで何度もあったように対人用狙撃銃のような口径の小さな物ではなく、対フェイズウォーカー用の大口径の物である。それが証拠に、逸れて行った弾丸が背後の木に当たると、直径五メートルほどもある大木のどてっ腹にトンネルの様な大穴を開けてしまった。
低速走行時とは言え、高感度センサーを備えた烈太郎に対して機体をかすめるなどとは、かなり精度の高い射撃手の仕業である。
「さて、おいでなすったな、謎のスナイパー野郎! ……いや、エナ・リックバルト!」
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