野望の91


 そう言ったとき、並みの考えであれば人工的な大災害を引き起こし、呉越同舟ごえつどうしゅうとばかりにいがみ合っている両軍を同じ舟に乗せて目的を共有させれば同じ障害に目を向けさせられることもあるだろう。

 例えば、このヴェルデムンドの先住生物である肉食系植物を大量に投入し、古式ゆかしい火星人襲来とばかりに人類全体を煽り立てて同じ敵を共有させてしまう手法である。

 だが、そのような手法を取れば、人類側にかなりの損害が伴うのは確実である。さらに、損害が伴うばかりだけではなく、その首謀者の存在が露呈されてしまった暁には新たな火種を生み出さないとも限らない。

 正太郎は考えに考えた挙げ句、未だかつて誰も感じ得たことのない感覚を引き出させることが大事だと考えた。そしてその考えに至ったのが、今回の作戦内容である。

 そのお膳立てをするのには数カ月を要した。顔の利く作戦部と情報部の兵士たちの協力のもとにあらゆる可能性を割り出し、確率がどんなに低かろうとも実行可能な行動パターンを何度も何度もシミュレーションした。さらに、必要な人物や情報源などを洗いざらい収集し尽くしたのだ。

 そこで拘束できたのが、兼ねてより暗躍の噂を聞きつけていた蔵人・ジミー・マーティズという人物である。

 その人物は先述の通り、あらゆる組織にも内通しており、中でも重要なエクスブーストやアンナ・ヴィジットとの繋がりも明らかなのである。先ずはこの人物を利用しない手はなかった。

 その後のことは結果の通りであり、羽間正太郎という人物の冒険譚そのものがそれを表している。

「それがこの有様では、諦めようにも諦めきれねえじゃねえか。……何より一番に、自分の人生を賭けてまでこの世界を見つめてくれていたアンナに申し開きが立たねえ」

 正太郎はこの状況をして、思いが考えるよりも先に行動に出たと言うわけだ。無謀なのは承知である。命知らずなのは承知である。しかし、この状況を切り抜けられようと切り抜けられまいと、それが出来る可能性を持ってこの世に生まれ出てきたからにはやらざるを得ないのが彼の性分である。

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