野望の89

 彼は頭の中で、

「14……13……12……11……」

 と残りの秒数を数えた。そして、懐に一つだけ隠し持っているエクスブーストに意識を持ってゆく。さらに、

「せいの!!」

 という掛け声とともに両足を振り上げ、

「とうりゃあっ!!」

 と、なりふり構わない大声を上げてしゃがみ込んだ。と同時に、肉体がバラバラになるほどの力を振り絞り全力で踏ん張りながら思いっきり前かがみになって体を急回転させた。すると、背後のアンドロイドが床から勢いよく持ち上がり、頭部をそのまま振り子のように反転させて硬い床に打ち付ける!

 どがーんという派手な金属音と、ぐしゃりという鈍い配線の切れる音が同時に辺り一帯を舞う。

 その勢いは果てしなく、格闘型アンドロイドの重量に比例するほどの衝撃である。だが、彼の予想以上の力が加わり、勢い余ってもう一回転してようやくそれは止まった。

 それはアンドロイドの首をへし折るには十分すぎる程の行為であった。このアンドロイドは格闘型であるだけに多少軽量には出来ているものの、自重によって頭部は見事に砕け散り、人間でいう頸椎の部分からは各種の配線が千切れて飛び出してしまった。

 そしてその一瞬を見計らった正太郎は、HS-1134Gの力が緩んだ隙を見て羽交い絞めにされた状態から脱出する。そして、

「7……6……5……4……」

 と、カウントダウンを止めぬまま懐に手を持って行き、エクスブーストの時限装置をアンドロイド軍団の頭上に投げ込んだ。

「3……2……1……」

 正太郎は、カウントダウンが終了するのとほぼ同時に頭を抱え込み、アンドロイド軍団の股座またぐらへと滑り込んだ。

 その次の瞬間、辺り一帯に目も覚めるような光景が巻き起こった。時限装置によりバーストされたエクスブーストの液体が超爆発でも起こしたかのように噴霧されると、一瞬にしてアンドロイドたちの装甲に染み込んでゆき、それまで活発だったアンドロイドたちは急激に動きを止めてしまった。そして、数秒間の静寂が辺り一帯を支配したかと思ったその時、

「はうぐっ……!!」

 武装アンドロイドたちが光を帯び、たちまち稲光のような放電をし始めたのである。

 

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