野望の㉚

「ねえ兄貴ぃ、なんで兄貴はあの時、そんな噂を広めるだなんて七面倒くさいことをしたんだっけ? そんな事をしなくたって、オイラのレールキャノンを何発かぶちかましちゃえば、そんなに時間を掛けなくても制圧出来ただろうに」

「馬鹿かテメェは! 俺の作戦が本当に破壊を伴った完全制圧だとでも思ってんのか!? そんなことならどんなへなちょこ軍師だって立てられる計画だろうが! いいか? あの谷はな、その土地を奪い取っただけで完結するわけじゃねえ。あのゲッスンライトという希少な鉱物と、それを有効活用できる積み上げてきた技術があって初めて価値があるんでえ!」

「そ、そうか! そうだったね、兄貴。だから兄貴はあんな無理をしてまで……」

 正太郎が、あの時流した情報と言うのは、あくまで表向きである。

 計画の目的としては、ゲッスンの谷を反乱軍の領地にし、物資も人数も少ない不利な状況を打破するための攻略だという概念を両軍に植え付けたかったのだ。

 しかし、本来はこの表向きの計画とは裏腹に、羽間正太郎と反乱軍最高司令レイ・ハミングストン、反乱軍参謀局長ムスタファ・アイグシルクらの間のみで取り交わした裏計画が存在したのである。

 それが、ゲッスンの谷をそのままそっくり施設ごと奪おうという、

『月の揺りかご作戦』

 である。

 正太郎は、敵の重要拠点である“ゲッスンの谷”攻略を最高司令レイ・ハミングストンから指名された時、このような自軍敵軍の両方を欺く計画の許可が下りなければ、所属している反乱軍から降りるとまで言い切っていた。

 無論、彼が所属していた反乱軍という所は、様々な将校や兵士、または素人の寄せ集め軍隊ではあったが、そこから大見得を切って離脱するということは命の保証がなくなるということを意味する。それがこの軍隊の掟であるからである。つまり、死を覚悟して言い切っている。

 正太郎自身はここまでの地位に昇り詰めてくることに、何ら戸惑いが無かった。なぜなら、戦場という特殊な舞台では、戦闘での功績と戦略的実績を上げた物が発言権を得やすいのは解かり切っていたからだ。特に、方々からの寄せ集め軍隊である反乱軍に至ってはそれが顕著である。

 生粋のネイチャーであり、自然型進歩派として名高い人格者レイ・ハミングストン最高指令や、全ての人間の平均化やグローバル思想を望まない慎重派ムスタファ・アイグシルク参謀長という人物には、細かい部分は違えど互いの思想主義を尊重し合えることで厚い信頼を得て迎え入れられていた。

「指令! 俺ァ常々色んな事を頭の中掛け巡らしていたんだが、あのゲッスンの谷を破壊の限りで落とすのは簡単だ。だがよ、俺ァ、そんなつまらねえ作戦じゃあ納得がいかねえ。なぜなら、そんな作戦ならそんじょそこいらのサルでもできる作戦だからだよ。この世の中で一番難しいのは、良い意味での人類の存続だ。この宇宙に、永遠の二文字の法則は存在しねえ。だからさ、良い意味で繋ぎ留めておくことの方が滅法難しいんだ。この一件をどうせ俺にやらせてくれるなら、こっちの難しい方をやらせてくれねえか? なあ、頼むぜ。指令?」

 

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