野望の㉘
「そんなことは解かっていマス。ただ単に、彼は手際が良いだけのサイコパスなだけデス。言うなれば、どれだけ早く確実に獲物を捕らえるかを競うだけの狂った捕食者に過ぎまセン」
その言葉は、まるでヴェルデムンドの背骨折りを人ならざる者と断罪するかのような言い様でしかなかった。
エナは、かつてグリゴリがこのような人間染みた思いを露わにした姿を見たことが無かった。それゆえに、どこか委縮した気持ちにならざるを得ない。
「わ、分かったわ。もしかすると、あたしの勘違いなのかもしれない……。そうよ、グリゴリの判断が間違ったことなんて今の今までなかったものね。そうやって二人で沢山の難局を乗り越えてきたんですものね」
エナのそういった納得の仕方は、ある意味当然なのかもしれない。
彼女は、人工知能グリゴリに出会うまでに彼女しか感じることの出来ない周囲へのわだかまりを抱えてきた。
『こんな小さな子供のくせに――』
あくまで言葉では出さなかったが、実の両親でさえそういった憤懣を態度で表していた。それを受け取るのが、常識の範疇を越えた天才少女なのだから、まるでガラスのショーケースでも眺めているかのように相手の心を見透かしてしまう。
そんな苦しみの毎日から救い出してくれた人工知能グリゴリは、エナにとって単なる親代わりをはるかに超えたアイデンティティを支える役割的意義を持っている。
どんなに彼女が類稀なる能力を有した天才少女であったとしても、人間は人間であり人の子は人の子なのである。己自身という存在は、相手があって初めて自分というものを認識しようとする。
エナは、グリゴリの言葉を無理にでも納得しようとした。それがお互いの役割であり、生き残るための全てだと感じたから。それがどんなに事実と相反していたとしても。
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