野良が旅立ちました

 実家には震災の年の秋に拾った兄弟猫が居るのですが、それとは別に通い野良猫が一匹居ました。

 当時、中庭には年老いた4代目雑種犬がいて、若い頃は猫キラーってくらい猫が嫌いだったのに、おばあちゃんになった彼女は何が気に入ったのか、その野良猫の為に自分の餌を必ず残して待っているという、驚きの歓待をしてしまい。

 野良猫は「うり」という名前まで貰って、半家族の地位を獲得してしまいました。それを見届けて4代目雑種犬は姿を消しました。


 日に3度たっぷりご馳走を食べるうりは、飼い猫たちより毛づやも良く、丸々と太って元気でした。

 それが、7月下旬から急に痩せ衰え出し、3日ほど姿を消したのです。

 ちょうど父が熱を出して危うくなっていたので、これは身代わりに逝ったのか……と、思った矢先にひょこっと姿を見せたうり。


 ガリガリに痩せ鼻水涎を垂らし、くしゃくしゃに汚れた顔で、見るからに病気だと思わせる姿になっていました。

 与えた猫缶もほとんど食べず、ひたすら母に甘えて撫でて貰い、中庭で体力の回復を待つように過ごして。

 4日目の朝、まだ早い時間にうりはすっくと立ち上がり、すたすたと中庭から南へ向けて歩み去ったそうです。


 振り返らず、真っ直ぐに。


 その日から二週間。うりは通って来ません。

 うりが姿を消した日に父の熱は下がり、小康状態になりました。やはり、父の身代わりに旅立ったのかもしれません。

 うり、父が大好きだったから。


 誰よりも父に甘えて、何故か「キッキッ」と鳴きながら四肢で父の足や手にしがみついて、噛みついてました。

 父を救急車で搬送した時、一週間姿を見せなくなったんですよね。その後はずっと母に甘えて、しっかりご飯を要求していた食いしん坊。


 幸せだっただろうか。

 愛され甘やかされた日々。それでも飼い猫にはならないと、自由を選んだ野良猫暮らし。

 どこを目指して、旅立ったの?

  

 にゃっ、にゃっ、とだみ声で歌いながら通ってくる、自己主張の強いおしゃべりにゃんこ。

 まだ、歌声が聞こえるような気がするよ。───うり。



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