左手
初めて現れたのは、高校に進学した頃だったと思います。
大嫌いな数学の問題が解けず、眠気と闘っていた最中に、ソレは落ちてきました。
今、まさに格闘中の問題の上に、左手がボトッ、と──…。
何処から出てきたのか、なぜ手首までの左手なのか、何が起きているのかという疑問より先に、眠気に気が立っていた私は、
「邪魔じゃーっ!」と、ムズッと掴んで投げ捨てていました。
まさか掴めるとも投げられるとも思ってなく、ただ単なる本能的な行動だったのですが、ハッと我に返った時には左手は消えていて、数学で頭が疲れて幻覚を見たのかも、などと理解不能な結論を出して寝ました。
怪奇な話を書いて言うのも変ですが、私は怪奇現象には半信半疑なのです。それだけ体験していて何を言ってるんだと、言われたこともありますが、幻覚幻聴じゃないという証明は出来ないじゃないですか。
これは怪奇現象です、と胸を張って証明出来るのなら、悩みません。
話を戻しましょう。
左手のことは綺麗サッパリ忘れるのですが、何が気に入ったのか、この後何度か出没するようになりました。
部屋の照明の紐にぶら下がっていたり、座ろうとした椅子の上にちまっと居たり、お気に入りのぬいぐるみの頭に乗っていたり。
何がしたいのか、私に何かして欲しいのか。目的はあったのかもしれません。けれど私は一切、問い掛けませんでした。
半信半疑ではありますが、怪奇現象には関わらないのが一番だと考えています。
問い掛ける、ということは、そちら側と繋がる危険が生じることになるのでは、と思うのです。
もし、あの時、私が左手の目的を尋ねていたら。
左手は、気づいた時には出没しなくなっていました。
私ではない誰かに取り憑いて、目的を果たしたのかどうか、知る由もありません。
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