第3話 Identity


「きみにとっての、僕って何?」


「私の大事な人よ。」

「じゃあさ、貴方にとっての、私って何?」


「僕の大事な人だよ。」


「じゃあさ、貴方にとっての、貴方って何?」


「なにそれ。僕は僕だろ?」


「質問に質問で答えないでよ。貴方らしいけど。」

ふふっと笑って、キスをする。


手を握ると、指先が少し冷たかった。

暖めようと指を絡めて手を握った。

一段とヒンヤリとした感触が手に触れた。


プラチナの指輪は皮膚よりも冷たさを含んで薬指に佇んでいた。


彼の手が私の足を撫でた。

薬指の中手関節あたりにいる一段と冷たい住人も一緒に私の肌を滑った。

身震いがした。


「僕は僕で、きみはきみだよ。きみは僕の大事な人だよ。」


私の体温で、彼の手が暖まった。

冷たさを感じなくなった。

まるで、私と同化したかのように。


「…本当の貴方が知りたいだけよ。貴方は…」


それから先は、彼の口が私の口を塞いだ。


遮られた言葉は、宙に浮かんで戻って来なかった。

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