第1話 Rich

私は恵まれた環境に産まれた。

なに不自由なく育ってきた。

教養もある、名声もある。

快適な住まいも、素敵な靴もある。

おそらく、世の中の大半の人が羨む生活。


ただ、唯一欲しいものは手に入らない。


彼らがみるのは、私の瞳でも、心の中は誰も見てはいない。私の身体越しに、違うものを見ている。

嘘で固められた言葉を紡がれて、本性を知っては絶望し、それでもまた夢を見たいと願ってしまう。


ああ、自由ならば、私が自由になったならば違う人生があったのだろうか。

恵まれた環境でなくてもいい、ただ焦がれるだけの人生よりは随分人間らしいだろう。


鏡の前の私は、随分年月が経った。

随分前から同じような思いに苛まれているが、一向に払拭できずにいる。


手の届かぬものに手を伸ばし続けるのが人間の性なのだろうか。


ノックと、女性の声が聞こえる。

「ご用意ができました。お支度はいかがですか。」


踵を返して、声に応える。

「今、行くわ。」



私が、唯一欲しいものは………

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