第81話 朝から堂々と・・・

「屁理屈はそっちのような気がするけど・・・俺が藍に逆らえないのを知っての行動か?」

「私はいたって真面目よ。それに、絶対に噂にならないから大丈夫よ」

「どうして断言できるんだ?」

「その理由は登校すれば分かるわよ。それを証明したくて今日の私は拓真君と一緒に登校する事にしたのよ」

「本当に噂にならない自信はあるのか?」

「うーん、正直半々くらいだけど、どうせ噂になっても唯さんが怒るのは拓真君だけだから私に実害はないわ」

「勘弁してくれよお。俺だって唯と喧嘩したくないぞ」

「そうならないから安心していいわ」

「だから、どういう意味だ?」

「先週、拓真君に脅迫ラブレターを送った犯人の目星がついたのよ」

「はあ?」

「だから、今日は私と手を繋いで登校してね」

「意味は分からんけど、それとこれは別問題だろ?」

「あら?拓真君の彼女は表向きは唯さんだけど、拓真君はレンタル彼氏だから今でも真の所有者は私よ。何度も言わせないで欲しいんだけど」

「はー・・・言ってる事が滅茶苦茶だぞ・・・勝手にしてくれ!」

「そうですか、じゃあ、勝手にさせてもらます」

 そう言うと、藍は俺の左手を離した。やれやれ、これで普通に歩ける・・・と思っていたら

「!!!」

・・・あのー、藍さん・・・あなた、笑ってるけど白昼堂々、いや、朝から堂々と俺のく、唇に・・・これが目的だったんですかあ?

 しかも、その後は堂々と腕を組んできたじゃあありませんか!おい、マジでFカップが腕に当たってるんですけど、わざと押し付けてないですかあ?

 藍はニコニコしていて心から楽しんでいるとしか思えない。これ以上は言っても無駄だと思い藍の好きにさせる事にした。

 そのまま藍はニコニコ顔で地下鉄の駅まで歩き、さらに階段を降りて行った。その時、急に藍が真面目な顔になって俺に小声で話し掛けて来た。

「拓真君・・・唯さんとやった気分はどう?」

「・・・藍、やった気分って何のことだ?」

「とぼけないで!あの日、正確には第一回の実行委員会があった日から唯さんの様子が変わったわ。拓真君が知らないとは言わせないわよ」

「だーかーら、何の事だ?俺も迷惑しているくらいだぞ」

「唯さんの態度が変わった事以外にも証拠があるわ。拓真君、どうしてあの時、拓真君のベッドの脇に唯さんのブレザーが放り投げてあったの?綺麗好きの唯さんにしては変よ。それに、あの時の唯さんのブラウスはヨレヨレだったわ。という事は、脱いだ後にクチャクチャに折り畳んだブラウスをもう1回無理矢理着たか、あるいはベッドの上で服をヨレヨレにするような事があったとしか思えないわ。これでもまだ白を切るつもりなの!何も無かったとでも言いたいの!!」

「・・・・・」

 やはり藍にはバレていたんだ・・・たしかにあの後から急に唯は俺にベタベタとくっつくようになった。以前は藍の前でも大人しかったのに、今は藍がいてもベタベタしているから藍の言い分が分からんでもない。

 しかも、そのきっかけはまさにには違いないのだから・・・あの短時間で唯が服を脱いだ事を見抜いていたとは・・・ついでに言えば、藍は俺と唯が最後までやったと思い込んでいる。だから、今日はそれを問い詰める目的もあったという事か。

「・・・まあ、さぞかし口説きやすかったでしょうね。落ち込んでいる唯さんの耳元で囁いたら、スンナリ受け入れてくれたでしょうからね。唯さんとは随分進展しているようで羨ましい限りだわ」

「・・・正直に言ってもいいか?」

「別に私は怒らないわよ。表向きは唯さんの彼氏でしょ?やったならやったで正直に言えばスルーしてあげる。いずれ私の所へ帰ってくるんだから、それまでは唯さんの好きにさせてあげるわ」

「・・・やる直前に藍が帰ってきたからやれなかった」

「はあ?」

「だからあ、正直に言えっていうから正直に言ってるけど、ブラジャーを外そうとした直前にお前が帰ってきたから、下着だけの唯、それも上下共に薄緑だったのを見たのは認めるが、そこから先に進めなかった」

「・・・ヘタレ・・・と言いたいけど、私が原因でやれなかったという事?」

「そういう事だ」

「・・・・・」

「その後はなかなか二人だけになるチャンスがないから、当然やってない。それは藍自身が証明できるだろ?」

「・・・・・」

「それと、俺が「やろう」って言ったんじゃあない、唯が「やろう」って言い出したんだ。唯を問い詰めても構わんぞ。唯も俺と同じ事をオウム返しで言うはずだ」

「・・・・・」

「俺は正直に全部言ったぞ。まだ足りないと言うなら、どういう言葉で、どういう態度で唯が俺に迫ったかも詳しく説明してやるぞ」

「・・・もういいわ」

 それっきり藍は黙ってしまった。ただ、心なしか俺の左腕を握る力が尋常ない位に強くなっていくのは気のせいではないですよね。それはともかく、唯とやらなかったのを怒っているんですか?それとも、やらなくて安心しているんですか?どっちなんですか?・・・ムスッとしてないで教えて欲しいんですけど・・・それとさっきのアレは嫉妬ですかあ!?

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