第45話 リアル脱出ゲーム開始前③~村山先輩の提案

 藍と唯、それに舞は顔をお互いに見合わせて『わたしたちはそんな事は知らないよ』と言わんばかりだが、俺は知っている。

「あー、俺は篠原から耳にタコが出来る位に去年から何度も聞かされたから、よーく知ってるぞ。トキコー随一の天才にして発明家だろ?」

「その通りですよ。まあ、発明家というよりは、役に立たない物を作り上げる『』といった方が正しいかもしれないが、昨年の6月6日の夕方、とある珍発明の設計ミスが原因で試作機が校内のラジオや無線機、Wi-Fiの電波障害を引き起こしています。時間については面白おもしろ可笑おかしくする為にわざと午後6時6分、つまり6並びにしただけですが、厳密に言えば電波法に抵触しかねない事故というかミスだったので、さすがの平川先生自身が七不思議からの除外を求めていたんですよ」

「あー、その話、俺も篠原から聞いた事がある。毎月のように珍発明をするが、半分以上は設計時の計算ミスとか機器の強度不足とかで使い物にならないらしく、その事故の時は設計図の変圧器の計算にミスがあって10倍の出力になっていたらしいぞ。昨年の秋ごろから時々珍発明の設計に駆り出されているらしく、しかも今年になって篠原の担任になったから、放課後になると平川先生の珍発明の設計や作成にしょっちゅう駆り出されるらしくて、篠原も『勘弁して欲しいぞ』とボヤいてたからなあ」

「あーあ、他人ごとのように私も言うようですが篠原君も気の毒ですねえ。うちらも時々平川先生の新製品の実験に付き合わされますが、3年間の間で役に立った物とか効果があった物はほとんどなく、使い始めて3日で壊れたとか、中にはスイッチを入れて数十秒で煙を上げたりとか、あまりにもアホらしい発明なのに本人が大真面目に説明するから爆笑モンだったりとか、とにかく平川先生は、存在そのものが七不思議の1つに取り上げてもいい位の人ですからね」

「それは篠原も言ってたぞ。篠原に言わせれば『トキコー七不思議の8番目の平川先生』になるらしい」

 ここで初めて村山先輩も笑顔を見せた。それを見た『佐藤三姉妹』も少しだが笑顔を見せた。どうやらこの一言で場の空気が軽くなったみたいだ。

「まあ、それは別件なのでこの位にしておきますが、昨年、わたしたちはその電波障害を実際に体験したので、その場で七不思議の4番目を入れ替える事を決めました。正直に言いますが、昨年の6月5日の段階では解明された七不思議が1つあったのですが、新たな超常現象や怪奇現象を発見できていなかったのです。だから私たちは歓喜して去年の6月6日に4番目の七不思議を入れ替える事を決めました。どれを入れ替えるかについては、伝統的に一番長く七不思議として取り上げられた物を入れ替える事にしているので、過去10年近くにわたって七不思議の4番目だった項目を入れ替えたのです」

「「「「・・・・・」」」」

「平川先生は基本的に七不思議の作成についてはタッチしません。ですので、昨年のトキコー祭前日になってミステリー研究会の会場であった旧校舎3階の特別教室に掲示された事で、初めて自分の珍発明が引き起こしたトラブルが七不思議の1つになっている事に気付いたのです。さすがに平川先生も焦ったらしく当時のメンバーに釈明し、もう既に準備されているので今年は黙認するが来年は変えてくれって言ってきたのです。ただ平川先生は去年のミステリー研究会の部長と共に七不思議として相応しい物を見つけ出したので、今年の年明けの段階で4番目をその現象と置き換える事でわたしたちと合意しています。ただ、今お話しした件は絶対に口外しないで下さい。下手をしたら平川先生の教員生活に終止符を打つ可能性もありますし、ミステリー研究会の存続そのものに影響を与える話でもありますので」

「わかりました。私も口外しない事をお約束します」

「あー、唯も口外しないよ」

「わたしも先輩とのお約束を守ります」

「俺も約束するぞ」

 そうか、これが先日篠原が生徒会室で言っていた『新たな怪奇現象を見つけ出した』という話の真相だったのか。平川先生も相当焦ったんだろうな。何しろ6月6日という具体的な日付が入っていたのだから記憶をたどって行けば自分の珍発明の失敗に行きつくのだからな。

「だから百歩譲って、別の超常現象や怪奇現象をトキコー祭前日までに見つけ出し、それをミステリー研究会がトキコー七不思議として認めたなら、6番目を別の物に変えてもいいと思っています」

 俺たち佐藤きょうだいの四人はお互いに顔を見合わせた。まさか村山先輩自身の口から七不思議の6番目を変えてもいいというセリフが出てくるとは想像していなかったからだ。明らかに一番驚いた顔をしていたのは舞だ。

「それは本当ですか?」

「これはあくまで私個人の考えであり、ミステリー研究会2年生3年生の総意ではないという事だけは言っておきます。本当はミステリー研究会の伝統を捻じ曲げるのでやりたくないが、藍ちゃんの言う通り、我々ミステリー研究会が加害者になっているとも解釈できるから、これが精一杯の妥協案です。ただ、もう1つの条件を付け加えさせて下さい」

「「「「もう1つの条件?」」」」

「ええ。この後に行われるリアル脱出ゲームで『佐藤きょうだい』たちのチームが私たちのチームよりも先に脱出に成功したのなら、この村山美沙、残る3人を説得し、新たな超常現象や怪奇現象を見付け次第、6番目の七不思議を置き換えるよう最大限の努力をする事を約束します」

「ありがとうございます、村山先輩」

「まだ決まった訳ではないので感謝の言葉を述べられても困ります。それに、私たちのチームは強力ですよ。多分、メンバーを見たら恐らく『佐藤きょうだい』が卒倒しかねないメンツを揃えて来ましたし、そのうち1人は、この手のゲームの天才ですよ」

「「「「天才?」」」」

「ええ、会えばわかりますよ。本当は別の人が来る予定でしたが、一昨日になって急遽これなくなって、代役として呼び寄せた人物が、まさかこの手のゲームの天才だったとは私も昨夜までは知りませんでした。別のメンバーがその人物について私に教えてくれたのですが、私としてはこの六人になって良かったと逆に思っている位です」

「それほどの人物なのですか?」

「ええ。舞ちゃんは知らないかもしれませんが、三人は多分、いや、確実に知っている人ですよ」

「「「知っている人?」」」

「そう、知っている人です。ついでに言えば現役のトキコー生ですよ」

 藍や唯、それに舞は互いに顔を見合わせているが、誰なのか思い浮かばなくて首を捻っている。だが、俺はという可能性に行きついた。

 でも、それは有り得ないないはず。だって、その人は・・・もしその人が村山先輩たちのチームに加わっていたら、俺たちのチームは多分村山先輩たちのチームに勝てない。たとえ泰介がゲームを相当やり込んでいて場慣れしているとはいえ、ひらめき力はその人に劣っているのは否定できないのだから・・・。

 俺はいつの間にか顔が真っ青になっていたようで、舞に言われるまで気付かなかった位だ。俺は「ちょっとトイレに行きたいのを我慢していただけだから行ってくるぞ」と言って誤魔化して立ち上がった。

 トイレに行きながら、そして戻りながら自分の気持ちを落ち着かせる事に専念した。洗面台の鏡で自分の顔色が元に戻っている事を確認してトイレを出て席に戻ったが、その時には既に女子トークになっていて俺が入り込める状況ではなくなっていた。

 でも、俺たちは山口先生と高崎さんとの約束を果たすチャンスを得た事だけは間違いない。2つのハードルは高いけど、少なくとも1つ目を超える事が出来れば、あとは村山先輩だけでなく、ミステリー研究会のメンバー全員の協力を得る事も可能なのだから。

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