俺の元カノが義姉に、今カノが義妹になって、家も学校も・・・

黒猫ポチ

義姉と義妹

第1話 エピソード 0

「父さん、今の話は本当か?」

「ああ、本当だ」

「それで、いつからなんだ?」

「予定では三日後だ」

 俺、佐藤拓真さとうたくまは心臓が壊れるのではないかという位に脈打っているし、さらには両方の手のひらが汗でびっしょりになっていた。

「それで、俺の立場はどうなる?」

「お前の方が3か月程早いんだろ?なら、お前が兄貴という事だな」

「あ、そういえばそうだった・・・」

「ただ、お前の隣の部屋だけはいくら何でも認められんぞ。父さんと母さんが1階の部屋に戻るから、あの部屋を使ってもらう。それでいいな」

「あ、ああ。それで構わん」

「という訳だから、お前は明日は父さんたちの荷物の引っ越しをやってくれ。まあ、臨時ボーナスは出すから」

「えー!・・・分かりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」

「そうそう、頑張ってねー。母さんも出来るだけ手伝うけど、重い荷物は任せたわよー」


 これが六日前の夕食での出来事だった。

 父さんと母さんが昼間にとある会合に出掛けて帰ってきたのは夕方の7時頃だった。俺は春休みという事もありクラスの友達の家でほぼ1日中ゲーム三昧で、帰ってきたのは父さんたちと10分ほどしか違わなかった。

 父さんと母さんが行った会合とは、簡単に言えば親戚会議だ。

 俺の親戚が10日前に亡くなったのだが、その人には俺と同い年の女の子が一人いる。その子の祖父は小学生の時に、母親は中学卒業間際に、祖母は高校1年の冬休み明けに、それぞれ亡くなって、さらに今回、父親も亡くなった。つまり、女の子が一人だけ残された状態になった訳だ。

 しかしながら、このご時世、高校生の女の子を引き取ると積極的に名乗り出る家庭などない。どの家も経済的に苦しいとか、あるいは年金暮らしの世帯とか、そんな家庭ばかりだ。この子の両親は一人っ子同士、残っているもう1組の祖父母も高齢で年金暮らし、親戚と言ってもかなりの遠縁ばかりの上、子育て世代とか、諸々の理由で高校生、しかも私立高校に通う女の子を引き取ると名乗り出ないのだ。

 仕方ない、と言った感じで親戚会議が行われ、最終的に俺の父さんと母さんがその子を引き取る事を了承した。俺の家は姉貴と兄貴、まあ姉貴は俺より9年、兄貴は8年も上だけど相次いで結婚して部屋が空いている事と、父さんは大手企業の部長という事で経済的にも何とかなりそうだという事で了承した訳だが、実際には、お人好しの父さんと母さんが押し切られたと表現するのが正しいようだ。

 結局、俺はほとんど一人で2日掛けて父さんと母さんの荷物を2階の部屋から1階の部屋に移し、さらに部屋の大掃除、ついでに自分の部屋とか風呂場、トイレ、玄関に至るまでピッカピカに磨き上げた。

 そう、俺はこの世の天国の到来を確信していた。身内の不幸が元なので大きな声で叫べないのが難点だけど、なぜならば・・・その女の子、ゆいは、俺のクラスメイトにして俺の彼女なのだあ!つまり、これから毎日ラブラブ、まさに新婚生活のような日々を送れるようになるのだあ!男子高校生にとって、これほどのラッキーイベントは無い。しかも親公認の同居なのだから。

 ただ、俺と唯は親戚、まあ、正しくは玄孫やしゃご同士になるのだが、最初から玄孫同士だと知っていた訳ではない。高校入学して間もなくの頃、俺の祖母の従姉妹が入院したというので、俺と父さん、母さん、祖父、祖母の5人で病院へお見舞いに行った時に、たまたま病室に先に来ていた唯とその父親にばったり会い、そこで玄孫同士の関係だという事を知ったのだ。

 唯と付き合い始めたのは昨年の秋だ。でも、その時には既に唯の母親はおらず父親と祖母の三人暮らしで、さらに祖母が冬休み前後から体調がよくない状態が続き1月末に亡くなったという事もあり、あまり仲は進展しなかった。そして今回、唯の父親が突然倒れ、そのまま亡くなってしまった訳だ。父親の死因は後で知ったが、くも膜下出血だ。

 俺は当然葬儀に参列したが、学校の連中は誰一人として俺と唯が玄孫同士だという事を知らない。当然、先生方も知らない。だから俺が葬儀に参列しても唯のクラスメイトが参列したと思っていて誰一人不思議に思う奴などいなかった。

 俺と唯が付き合っているというのを知っているのは、クラスでは3人だけ。校内を見渡しても、多分、この3人だけだと思う。その位にひっそりとした付き合いではあったが、それでも彼氏彼女には違いなかった。だから、唯がうちに来るという事だけで十分舞い上がった状態だ。

 俺の母さんは唯が住むアパートの荷物の整理、それと役所への手続きなどの為に走り回っていた。わざわざパートの仕事を休んで唯の荷物の整理をしていたのだから。そして、四日前の夜遅くなってから1件のメールが入った。

『明日のお昼過ぎに荷物と一緒にたっくんの家に行きます。唯より』

 当然、俺の心はこの時からカウントダウンが始まった。

 そして三日前、俺は昼食も早めに食べ終えて、あとは引っ越しの荷物が届くのを待つだけとなった。

 母さんは唯のアパートに引っ越し業者が来たのを見届けた後、先に車で戻ってきていた。そしてあまりにも俺が落ちつかないのを見て母さんが笑っていたが、俺が落ちつかない本当の理由を母さんは知らない。まあ、いずれ説明すれば済む事だと軽く考えていた。そう、この時は。

 今にして思えば、この時に言っておけば良かったのだ・・・そうすれば俺は・・・。


“プルルルー、プルルルー”

 あと少しでトラックが着く時間になるという時に、家の固定電話に一本の電話が入った。多分、引っ越し業者からだと思うと言って母さんが電話を取った。

『もしもし、佐藤ですけど・・・はいい?・・・えーー!!それで・・・はい・・・はい・・・分かりました。後でまた教えて下さい。それじゃあ』

“ガチャリ”

「かあさーん、何かあったの?トラックが渋滞に巻き込まれたとかかあ?」

「拓真、悪いけど今日の唯ちゃんの歓迎会は中止ね」

「はあ?」

「幸太おじさんが午前中に亡くなったそうよ。悪いけど明後日が友引だから今夜が通夜で明日が葬儀になるんですって。だからあんたも行ってもらうわよ」

「ちょ、ちょっと待て!という事は唯も行くしかないよなあ」

「当然ね。だってクラスメイトのお父さんでしょ?」

 こう言っているうちに、我が家の前に引っ越しのトラックが止まった。

 仕方ないので荷物だけ運び入れた後、荷物の整理をする暇もなく俺たちは出掛ける事になった。

 幸太おじさんとは、俺の父さんの再従兄弟はとこにあたる人だ。亡くなった唯の実の母親である悦子おばさんは俺の母さんの再従姉妹はとこにあたる人なので、まったく逆側の血筋の人にあたる。そして、このおじさんには一人の女の子がいて、そいつの名前はあい。こいつも俺のクラスメイトだ。

 藍とは幼稚園入学以前から小学生1年生までの間に数回会った事があるらしいけど、実際には面識が無いに等しかった。何しろ、夏休みが始まる少し前に互いの昔話をしていた時に、どうも似たような話があるという違和感を覚えたのだ。その日のうちに年賀状を調べなおし、父さんに聞いたら、その年賀状に書かれていた男性が父さんの再従兄弟だと教えてくれて、しかも藍が教えてくれた住所と年賀状の住所が一致した為、俺と藍が玄孫やしゃご同士の関係だという事に気付いたのだ。

 だが、この時、俺は既に・・・まあ、この話はやめておこう。

 とにかく二日前、俺と唯はクラスメイトとして藍の父親の葬儀に参加した。そして、葬儀が終わった後の夜に親戚会議が行われたのだ。関西や東京から、中には九州から来た人もいたので、やむを得ず葬儀が終わった日の夜に会議が行われたのだ。

 会議の内容は、おじさんの一人娘である藍をどうするか、という話だ。藍の境遇は唯とそう変わらない状態だった。そして先日の唯とほぼ同じような展開で、今回も父さんと母さんが藍を引き取る事を了承、いや、今回もお人好しの父さんと母さんが藍を引き取る事で押し切られたのだ。

 次の日、つまり昨日、やむをえず俺と唯は再び家の中の荷物をあーだこーだ言いながら夜遅くまで掛かって動かし、藍の為の部屋を用意した。母さんは唯の住んでいた部屋の解約などをした後に藍の荷物の整理を手伝った。そして、その翌日、つまり今日の午前中に引っ越しのトラックが来て、それと一緒に藍は俺の家に来た。


 俺は天国を夢見ていた。だが、その天国が来る直前に地獄へ変わった。


 なぜなら・・・藍は元カノだからだ。


 しかも、誕生日の関係で、俺の姉だ・・・。

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