169話

「炎皇剣!」


「雷旋弓!」


 最初に攻撃を仕掛けたのは、ジャスティナだった。 

 それを援護するかのようにフォレが、雷を纏った矢を放つ。


「無駄です」


 しかしタウゼントは、ジャスティナが振るう燃え盛る大剣を右手で軽くいなし、その後ろから迫る雷の矢を素手で掴むとそのまま、フォレの方へと投げ返す。


大地の壁グランド・ウォール!」


 フォレが放った時よりも、回転力が上がっている矢に対し、グラさんが地面より生成した厚さ一m程の石の壁で防ぐ。

 グラさんの生成した石壁ですらも、矢が半分ほど食い込んでいるのでその威力の恐ろしさが分かる。


「すまない、グラさん」


「なぁに、構わんよ。それにしても……凄い威力じゃのう」


 お礼を言うフォレに対し、グラさんは爽やかな笑みを浮かべながらタウゼントを見やる。

 タウゼントは、未だに人の形を保ってはいるが、戦いが続くにつれてその異質な力が増している。

 ジャスティナ曰く、この戦いを通して邪神の力との融合が進んでいるとのことだ。

 早く助けなければ、完全に戻れない所まで行ってしまうと焦るような事をほざいてくれる。


「……よし! 準備万端だ、皆どいて!」


 俺の言葉を合図に、全員が俺の射線上から退く。それを確認すると、俺は久しぶりのあの魔法を放つ。


超伝導砲リニアガン‼」


 皆の時間稼ぎにより、充分な威力を持ったソレは轟音を立ててタウゼントへ向かっていく。

 学園に居た頃の超伝導砲リニアガンならば、無駄に範囲が広くタウゼントごと消し去ってしまっていたが、今の俺にとって調整など容易い事である。

 効果範囲を出来るだけ絞り、殺しはしないものの当たれば間違いなく行動不能になる威力に調整してある。

 

「だから、無駄ですと……なに?」


 タウゼントは、相変わらずの無表情で超伝導砲リニアガンを弾こうと右手を前に突き出すが、予想外の威力に逆に右手が吹き飛ばされそうになり、初めて驚きの声を上げる。


「へへん、見たか! アルバのとっておきだい!」


 その光景を見て、何故かアルディが自慢げに叫ぶ。


「相手の戦力を少し見誤ってましたね……誤差を修正、適性進化をします」


 タウゼントは、両手で超伝導砲リニアガンを受け止めながら何かを呟く。


「……おい、アルバ。あの魔法は両手で受け止められる程度の魔法なのか?」


「そんなわけないだろうが」


 ジャスティナの言葉に俺は首を横に振って否定する。

 俺が室内で使える魔法の中では、間違いなく最高の威力を持つ魔法だ。

 今までも当たりさえすれば一撃必殺だったのだ。

 実際、今でこそタウゼントは防いでいるように見えるが、じりじりと後ろに押されていた。

 すると、いきなりタウゼントに新たな二本の腕が生える。

 タウゼントは、受け止めていた超伝導砲リニアガンをその四本の腕で無理矢理握りつぶす。


「そんな……アルバ様の超伝導砲リニアガンが破られるなんて……」


 フラムが信じられないという表情を浮かべながら驚く。

 ぶっちゃけ、俺も動揺を隠し切れない。今まで、超伝導砲リニアガンを完全に防がれたことは無かったからだ。

 だが、それと同時に気になる事もあった。


「ジャスティナ、タウゼントのあの腕なんだけど何か分かるか?」


「……恐らく、進化したのだろう。より戦いに適した姿にな。ワイズマンは、常日頃から進化について研究していた。だから奴が最高傑作と言っていたあの娘が、進化してもなんら不思議ではない」


 そういえば、確かにワイズマンはそんな事を言っていたな。

 もし、ジャスティナの言葉が本当ならば、戦いが長引けば長引くほどタウゼントの姿はどんどん人間離れしていってしまう。

 これは、ますます勝負を早く着けなければならない。


「そんなの相手にどうやって勝てばいいって言うんだい? アルバ君の最高の魔法でも駄目だったんだろう?」

 

 矢を放って牽制をしながらフォレが尋ねてくる。

 確かに、超伝導砲リニアガンが駄目で、更に進化もするというのなら普通なら詰みである。 

 だが、俺には一つだけ対抗できる手段が思い当った。

 それは魔人モードだ。目には目を、邪神の力には邪神の力である。

 正直、向こうが邪神の欠片なのに対し、俺は乗っ取られかけた際の残滓なので勝てる可能性は薄いが、今はそれしか手が無い。

 ワイズマンが、あとどれ程の手を残しているか分からなかったので出来れば温存したかったが、超伝導砲リニアガンが効かなかった以上そんな事も言ってられまい。


「タウゼントの牽制はそのままで聞いてくれ」


 タウゼントを近づけまいと魔法を撃ち続けているフラム達に、俺は話しかける。


「フラム、アルディ、フォレ、グラさんは、ワイズマンの後を追ってほしい。俺とジャスティナはタウゼントの沈静化だ」


「何故お二人だけなんですの?」


 俺の言葉にフラムが尋ねてくる。


「ワイズマンが、あとどれだけの手を隠してるか分からないからね。だから、人数は多い方が良い」


「私とアルバが残る理由は?」


 続いて、ジャスティナが尋ねてくる。


「それは、俺とジャスティナだけが持っている力に関係する。多分、タウゼントを相手にするならその力をフルにしなきゃ勝てない」


 その場合、間違いなく周りを巻き込んでしまう。それを踏まえて、俺とジャスティナだけが残った方が周りを気にしなくて良いので都合が良い。

 ジャスティナはその説明で納得したのか、それ以上は何も言わなかった。


「じゃが、やはり二人だけというのはきついんじゃないのか?」


「いや、倒すまで行かなくても最悪足止めだけなら、多分二人だけでも大丈夫です。ワイズマンさえ捕まえれば、タウゼントを止める手段が分かるでしょうし」


 普通に戦っても勝てないなら、改造した張本人に聞けばいい話なのだ。

 

「なるほどな……了解じゃ」


 俺の言葉にグラさんは頷く。


「俺が合図したら、グラさんは皆を連れてワイズマンの後を。ジャスティナは、俺と一緒に邪神の力をフルに使ってタウゼントを足止め。可能なら沈静化」


 再度、俺が今回の作戦を説明すると全員が了承の意味を込めて頷く。

 全員の了承を得ると、俺は魔人モードとなる。


「砂塵爆!」


 俺は、タウゼントに向かって砂塵の嵐を放つ。

 すぐ破られるだろうが、目くらましには充分だ。


「今だ!」


 俺が合図すると、すでに元の姿に戻っていたグラさんはフラム達を乗せると穴を掘ってワイズマンを追う。

 タウゼントがグラさん達を追いかけられないように、俺はすかさず穴を埋める。


「さて、足を引っ張るなよ……アルバ」


 ジャスティナが、禍々しい両手剣を召喚しながら話しかけてくる。


「そっちこそ、足引っ張んなよ」


 俺も自分の得意武器であるハルバードを生成し構えながら、軽口で答える。

 すると、砂塵の嵐から黒い影が飛び出しこちらへと飛びかかって来た。

 タウゼントは、さらに進化したのか瞳が真っ赤に染まっており四つの複眼になっていた。

 彼女は、ジャスティナに飛びかかり鋭く尖った爪で斬り裂こうと襲い掛かる。


「さっきまでの私と思うなよ!」


 ジャスティナが吠えると、両手で持っていた剣を振るうとタウゼントの右腕をあっさりと斬り落とす。

 

「ふん、周りを気にしなくて良いなら貴様なんぞ相手にならん」


 流石はボス。敵にすると厄介だが味方になると、これほど頼りになる相手も居まい。


「あぐう……! うがぁっ」


 腕を斬り落とされて、タウゼントは一瞬苦しげな表情を浮かべるが、すぐに腕を再生してしまう。


「うげ……再生機能まで備えてんのかよ……」


 常に進化して再生機能まであるとか無敵じゃねーか。ワイズマンが最高傑作と言っていたのも頷ける。

 だが、逆に考えれば余計な手加減をしなくても良いという事にもなる。

 

「そんじゃまぁ、行きますか!」


 奇しくも邪神の恩恵を受けた三人が一堂に会し、戦闘を開始したのだった。



 タウゼントとの戦闘は熾烈を極めた。

 俺の予想通り、邪神の力を使った攻撃はタウゼントに有効だった。

 しかし、彼女はすぐにダメージを回復し、尚且つ一度受けた攻撃は効きにくくなるというどこのセイントだとツッコみたくなる性能まで持っていた。

 それ故に、戦闘開始からしばらく経つが未だに決定打を与えられずにいた。


「はー……はー……おい、アルバ。奴らはまだワイズマンを捕まえられないのか」


「とりあえず……信じて待とうぜ」


 常に全力なせいか、ジャスティナは汗を大量に流しながら息を荒くして俺に話しかけている。

 正直、俺も限界に近い。元々、三分間しか魔人モードが使えないのを無理矢理延長しているのだ。

 体の節々が悲鳴をあげている。


「あぐ……あぁ……ぐぅ」


 しかし、それは向こうも同じだったのか。一見、無傷に見えるタウゼントだが、苦しそうにしていた。

 攻撃の威力も下がってきたように見える。


「ア……さん」


 再び攻撃を開始しようとした時、タウゼントが何かを言いかけた事で動きを思わず止めてしまう。

 進化をし始めてから、言葉らしい言葉を発していなかったので尚更だ。


「ア……ルバさん、私を……こ、ろして……」


 タウゼントは、涙を流しながらこちらを見てそう懇願してくる。


「タウゼントさん、正気に戻ったの?」


「お父様の……術が何故か弱くなったので……こうして、今は自我が復活しました。だけど……すぐにまた呑まれてしまいます」


 俺が尋ねると、タウゼントは苦しそうにしながらそう答える。

 もしかして、フラム達の方が上手くいったのか?


「どうすればお前を殺せる?」


「私の……心臓部に、邪神の欠片のが埋め込まれています……そこを破壊、すれば……」


「ジャスティナ!」


 ジャスティナが、ストレートにそんな質問をしたので俺は思わず叫ぶ。

 タウゼントも素直に答えるなんて、何考えているんだ。


「早く、殺して……ください! 私は……人間のまま、死にたいんです」


「……分かった」


 タウゼントの言葉にジャスティナが頷くと、剣を構えながら彼女に近づく。


「何のつもりだ?」


 俺がタウゼントを庇うように立ち塞がると、ジャスティナは睨みながら尋ねてくる。


「タウゼントの自我が戻ったって事は、ワイズマンをフラム達が捕まえたって事だ。このまま、足止めに徹すればタウゼントを戻せるかもしれないだろ」


「……お前も私も、限界に近い。このまま、あいつらが戻ってくるまで足止めできる保証はどこにもない。ならば、奴の言う通りこの場で殺してやるのが情けというものだ」


「だけど……!」


 救える命があるのに、救えないなんて俺にはできない。

 青臭いと言われようが何しようが、これが俺なのだ。 


「良いんです……アルバさん」


「タウゼントさん……」


 声を掛けられ、そちらを振り向けばタウゼントは優しげな表情を浮かべていた。


「貴方の気持ちは……とても嬉しいです。だけど、もう戻れないというのは自分が、一番分かっています……私の為を、思うなら……どうか、人間のまま……」


「アルバ。貴様が選ぶんだ。人間のまま死なせるか、化物として殺すか」


「俺は……」


 どうすれば良いのか、俺には正解が分からない。

 世の中、綺麗事だけではどうにもならないという事は知っている。

 だけど、納得できるかどうかは別である。地球に居た時、青臭い主人公を馬鹿にしていたが、いざ自分が同じ立場なってみると、彼らを笑えない事に気づく。


「あ、ぐう……! は、やく、こロシて……」


 俺が悩んでいると、タウゼントは苦しみだす。


「アルバ!」


「あルバさン!」


 ジャスティナとタウゼントの声が俺の心を締め付ける。


「……ぁぁああああああああ!」


 俺は、目に涙を浮かべながらハルバードを構えタウゼントに向かって突撃する。

 彼女でも制御しきれないのか、表情とは裏腹に攻撃がこちらに向かってくるが、ジャスティナがそれを全て斬り払う。


「彼女を救え、アルバ!」


 ゾブリ。

 嫌な感触がこの手に伝わるのが分かる。

 パキンと何かが割れる音が聞こえたと思ったら、眩い光がタウゼントから溢れだす。


「っ! アルバ、何かおかしい! そこからすぐに離れろ!」


 感傷に浸る間もなく、ジャスティナの声で我に返ると俺はすぐにその場から離れる。

 もしかして、タウゼントに騙されたか?


「そんな……まさか……と共鳴して……?」


 しかし、ボロボロに崩れ去りながらも驚きの声を上げているタウゼントを見て、彼女にとっても予想外だったことが分かる。


「ア、ルバさん……! い、ますぐ逃げてください。説明してる暇は無いです……はや、く!」


「タウゼントさ「逃げるぞ、アルバ!」あ、まだ……!」


 俺が戸惑っていると、ジャスティナが俺の手を掴んでその場から逃げ出す。

 もはや力を使い切った俺に抵抗する術はなく、大人しく連れていかれてしまう。


「ありがとう……そして、ごめんなさい」


 後ろから小さく声が聞こえた直後、視界が一面真っ白になりそこで意識が途絶えたのだった。

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