167話
「ジャスティナ……!」
面識のないフォレ以外の面子は、警戒しながら戦闘態勢に入る。
此処は七元徳の一人であるワイズマンの作った魔物の中なのだ。他の七元徳が居てもなんら不思議ではない。
もしかしたら、ワイズマンが生き残れと言っていたのは、ジャスティナと戦って勝てという意味だったのかもしれない。
あれ、無理ゲーじゃね? 以前会った時は、エレメア無双により退けたのだ。
あの時から強くなっているとはいえ、いきなりボスと戦うのは厳しいかもしれない。
「……まぁ待て。今は貴様らと戦うつもりはない」
ところが、ジャスティナは首を横に振ると戦闘の意思が無い事を示すかのように両手を肩の高さまで上げる。
「そんなの信じられるわけがありませんわ!」
「そうだそうだ! どうせ、そこら辺に仲間も隠れてるんだろ!」
ジャスティナに対し、フラムとアルディは警戒を緩めずに叫ぶ。
唯一面識のないフォレは、状況が把握できていないのか頭に疑問符を浮かべている。
「本当だ。というより、今の私には何の力も無いのだ。……こいつのせいでな」
そう言うとジャスティナは、自身の両腕に嵌められている石造りの腕輪を見せる。
「それは?」
「ワイズマンの作ったものだ。材質は分からんが、魔法に関するありとあらゆる物を封じてしまうのだ。おかげで、今の私はただの人間という訳だ。名前は確か……
俺の質問に対し、ジャスティナは素直に答える。
確かに、今のジャスティナには敵意や以前の様な威圧感が感じられない。
「そんな都合の良いアイテムなんて聞いたことがありませんわ。大方、私達を騙そうとしているのでしょう?」
しかし、フラムは敵意を剥き出しにしながらジャスティナに噛みつく。
ぶっちゃけフラムの考えに賛成だ。なにせ、敵のボスなのだ。色々油断はできない。
「信じられないならそれでいい。なんなら、私に攻撃してみるか? 今なら、赤子の手を捻るより簡単だぞ?」
ジャスティナは、そう言うとドカッとその場で胡坐をかく。
仮にも女の子がそんな豪快な座り方をするのは如何なものだろうかと思ったが、今はそんな事をツッコんでいる場合ではないので俺の心の内にしまっておく。
「う……」
フラムはジャスティナに銃を向けてはいるが、敵とはいえ無抵抗の相手に攻撃をするのは気が引けるのか、躊躇していた。
「ね、ねえ……この人と何があったかは知らないけどさ……流石に無抵抗の人に攻撃はどうかと思うよ?」
フォレの言葉にフラムは身じろぐ。
フラム自身も迷っているのだろう。今のジャスティナは、本人の言う通り無力なのだろう。
だからといって、はいそうですかと認めるわけにもいかない。
「……アンタはこれからどうするつもりなんだ?」
フラムが悩んでいる間、俺はジャスティナに尋ねる。
どういう経緯があったかは分からないが、おそらくワイズマンが裏切るなりなんなりしたのだろう。
そうでなければ、ジャスティナの力が封印されている理由が分からない。
「……ワイズマンとエスペーロの馬鹿共を粛正する。なにせ、私を裏切ってこんなことをしてくれたんだからな」
「え゛っ……エスペーロも裏切ってんの?」
あいつは、ジャスティナを崇拝してそうな雰囲気だから裏切るような感じじゃなかったんだけどな。
まあ、あいつの考えなんて分かりたくないからどうでも良いんだが。どっちにしろ敵だし。
「それにしても、どうして裏切られたんだ?」
「どうせ、人望が無かったからですわ」
俺がジャスティナに尋ねると、フラムは鼻をフンと鳴らしながら言う。
うーん、中々に毒を吐くねー。気持ちはわかるけど。
「理由は分からん。が、あいつは自分の知識欲に忠実な所がある。どうせ、しょーもない理由なんだろう」
ジャスティナは忌々し気にそう言う。
ふむ……。
「なぁ、アンタ俺達と一緒に戦わないか? 目的は一緒なんだし」
「アルバ様⁉」
「何言ってんの⁉ 敵だよこの人!」
俺の発言にフラムとアルディが驚きながらこちらを見る。
「……本気か? 私は、お前達の敵なんだぞ?」
ジャスティナも怪訝そうにしながら尋ねてくる。
まあ、そう言われるのは予想ついていた。だが、考えてもみてほしい。
確かに本来なら敵同士だ。だが、今は向こうに戦う意思が無く、且つ目的が一緒ならば共闘してもいいのではないだろうか。
ジャスティナの力は充分分かっているし、協力してくれるととても心強い。
「まあ、敵同士だっての分かってるけどさ。俺としては、戦力は多い方が良いと思ってるんだ。ワイズマンにも詳しいだろうしな」
「確かにそうだが……私に何かメリットがあるのか?」
そう聞いてくるのも予想済みだ。
「その腕輪を壊すのでどうだ? 封印されているって分かってるのに外さないって事は自分で外せないんだろ? だから、俺がそれを壊すから今回だけ協力してくれ」
ぶっちゃけ、壊すだけなら自分でも出来そうなものだがそれをしないのは単純に出来ないからだ。
ジャスティナのあの戦闘力は、邪神の呪い込みでの強さのはずだ。
あくまで俺の予想だが、今のジャステナは一般人と変わらないのだと思う。だから、壊そうにも非力な状態のジャスティナは壊せない。
「……」
図星だったのか、ジャスティナはこちらを睨みながら無言で悩む。
「……分かった。今回だけ協力しよう」
しばし悩んだ後、ジャスティナは頷きながらそう言う。
「契約成立だな。そんじゃまぁ、ちゃちゃっと壊しますか」
「アルバ様……そんなあっさり信じていいんですの?」
「俺の勘だけど……多分、こいつは約束を破らないよ」
今まで出会った七元徳達も、一癖も二癖もある奴らばっかりだったそれぞれがその特性を強く持っていた。
エスペーロなら希望、リーベなら愛という感じだ。
ジャスティナは正義。もし、ジャスティナにも当てはまるなら彼女の中の正義が約束を破る事を許さないだろう。
まあ、間違った正義で世界を滅ぼそうとしてるくらいだから確証はないが、何となくそんな気はした。
「ふん……で、どうやってこの腕輪を壊すんだ? 言っておくが、魔法の類は効かないぞ?」
ジャスティナは、肯定も否定もせず尋ねる。
「ま、ここはオーソドックスに物理でしょ。都合が良い事に俺の魔法は、土魔法だ。魔力こそ纏ってはいるけど、基本は物理攻撃だ。まあ、そんな石細工の腕輪なんか余裕でしょ」
俺は、そう言うと鉄製のハンマーを作り出す。
「……待て。もしかしてだが、そのハンマーで壊す気か?」
「そうだけど?」
「よし分かった。別の方法を探そう。な?」
ジャスティナは、冷や汗を垂らしながら頼み込んでくるが、生憎俺はそれを聞いてやる義理は無い。
「アルディは、ジャスティナを押し倒して。フラムとフォレは両腕を押さえて」
「「「了解(ですわ)」」」
「待て貴様ら! おかしいと思わないのか! いくら壊すのが目的だからってハンマーは無いだろハンマーは!」
ジャスティナは必死に抵抗するが、やはり一般人程度の力しか無いのか三人にあっさり押さえ込まれてしまう。
「私は、アルバ様に従うだけですわ」
「私もー!」
フラムは、ここぞとばかりに良い笑みを浮かべながら答える。
アルディも負けじと良い笑顔だ。
「ごめんねー? 君には特に恨みとかないけどダーリンのお願いだからね」
フォレは、ジャスティナの腕を押さえつけながら申し訳なさそうに言う。
「だーいじょうぶだって。ちゃんと腕輪だけ狙って壊すから。これでも修行して力の加減とかも上手くなったんだから」
俺は、ジャスティナを安心させるため満面の笑みを浮かべながらそう答える。
「……お前、さてはあの時襲撃した事を恨んでるな!」
「ソンナコトナイヨ?」
はっはっは、俺はそんな過去に拘るほどみみっちくないのだよ。
「目を見て言え! や、やめろ……やめろおおおおおお!」
その後、無事に両腕の腕輪が壊れたジャスティナは力が戻りましたとさ。めでたしめでたし。
その後、めちゃくちゃ殴られた。
◆
「全く、貴様はなんて事をするんだ」
ジャスティナは、両腕をさすりながら愚痴る。
「助かったんだから良いじゃんよ。そんな事よりも早速協力してもらうよ。まずは、このダンジョンについてなんだけど」
「分かっている! ……が、生憎このダンジョンについては私も詳しくは知らない。ワイズマンの研究施設兼移動用だというのは知ってるんだが、構造まではな……」
何となくそんな気はしてた。ワイズマンは、何か色々勝手にやりそうなイメージだったし。
まあ、ダンジョンについては大丈夫だろう。俺には地形が分かる魔法があるしな。
「だが、奴の性格を考えると恐らくはこのダンジョンの最奥に居るだろう」
ふむ……。
俺は、両手に魔力を纏うと地面に手を突いて
「うげっ」
「どうしたの、アルバ?」
そんな俺の様子を見て、アルディは不思議そうな顔をしながら尋ねてくる。
「なんか、すっげぇ魔物がたくさん居るんだけど」
「恐らく、奴の実験体だろう。奴は、様々な種族で実験を繰り返していたからな」
俺の言葉にジャスティナが答える。
あー、そう言えばタウゼントは千番目とか言ってたっけ。なら、この魔物の数も納得だ。
……正直、此処を素直に突破するのは骨が折れる。
「……よし」
俺は一人頷くと、グラさんを召喚する。
此処でも召喚できるか不安だったが、どうやら杞憂だったようだ。
「なんじゃ、アルバ。久しぶりじゃのう」
相変わらずナイスシルバーなグラさんは白い歯を覗かせながらニカッと笑う。
「って、ソイツは確か……」
グラさんは、すぐにジャスティナに気づくと警戒の念を強める。
俺がこれまでの事情を説明するとグラさんはため息を吐く。
「はぁー……全く……お主の発想はいつも斜め上じゃのう。まさか、敵に助力を願うなんてな」
臨機応変と言ってくれたまえ。変なプライドよりも確実に勝つ方が大事なのだ。
「私もそう思いますわ」
「私も同感だ」
しかし、そんな俺の考えなど露知らずフラムとジャスティナは好き勝手言ってくれる。
具体的には瀬戸内海くらい広い俺の心は、フラム達の発言を華麗にスルーしながらグラさんに尋ねる。
「それでグラさん……なんだけど、可能です?」
「うむ、それくらいならお安い御用じゃよ」
俺がとある提案をすると、グラさんは快く引き受けてくれる。
困った時のグラえもんである。本当、頼りになる。
「ふんっ」
グラさんは、人型からモグラの姿に戻る。
ダンジョン内という事もあり、いつもよりは少しコンパクトだ。
「それじゃあ、ワシの背中に乗るが良い」
「アルバ様? 一体、何をなさるおつもりですの?」
意図がよく分からないのか、フラムは首を傾げながら尋ねてくる。
「まあ、とりあえず乗れば分かるよ。ほら、ジャスティナも」
「う、うむ……」
ジャスティナは、煮え切らない返事をしながら遠慮がちにグラさんに手を伸ばす。
その時、俺は見逃さなかった。
ジャスティナの口元が一瞬緩んだことを。
恐らく、それを追及しても全力で誤魔化されるだろうから、その時はツッコまなかった。
「全員乗ったかの?」
「はい。それじゃ、ナビは俺がします。『最奥まで一直線作戦』始動!」
何も馬鹿正直に、敵が用意したダンジョンをクリアする必要は無い。
俺は土属性なのだ。ならば、土属性を最大限に活かさせてもらう。
俺の合図と共に、グラさんはその鋭い爪で壁を掻きだし凄まじい速度でワイズマン達の居る所まで向かうのだった。
「……流石にこれは卑怯じゃないか?」
俺の隣で、ジャスティナがポツリと呟いたが俺は聞こえないふりをした。
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