第55話
「ようよう、聞いたぜ」
翌週、登校して席に着くとべーチェルが話しかけてくる。
「聞いたって、何がですか?」
「あのカルネージと同じパーティに入ってるって?お前も物好きだよなぁ」
べーチェルは、まるで珍獣でも見るかのような顔でこちらを見ながら話す。
「カルネージさんの事を知ってるんですか?」
「あいつとは、初等学部の時に同じクラスだったんだけどよ。光属性っていう恵まれた属性に癖に回復魔法しか使えないんだぜ?それで宝の持ち腐れだ何だって馬鹿にされてたんだよ」
それは、カルネージも話してたな。
「やっぱり、そういうのって敬遠されるんですかね」
「俺は、そいつ個人の個性だと思うから良いと思うんだけどよ。単純な戦闘能力が高ければ優秀って思ってるやつは多いからな。カルネージみたいなやつは、あんま好かれないな。普通のヒーラーでさえ、多少の攻撃手段は持ってるし」
だから……と、べーチェルは真剣な顔をしつつ話を続ける。
「あいつをパーティに入れてくれてありがとな。俺のパーティに入れたかったけど他の奴らが嫌がっててよ。あいつは、結構変わった奴だけど根は良い奴なんだ」
「まあ、それは話してて何となく分かりましたよ。攻撃手段が無いって言うのもなんとかなりましたし」
「お!そうなのか!いやー、流石は訓練場の破壊神!」
それ関係あるのかよ。ていうか、そう呼ぶなって言ったろうが!
「あ……そ、そうだ!アルバ、こんな話を知ってるか?」
俺がジト目で見てる事に気づいたのか、しまったという顔をしながらべーチェルは慌てて話題を変えてくる。
「……なんですか?」
「そんな怒るなって!ついだよつい、悪気は無かったんだよぉ~」
ベーチェルは、両手を合わせながら軽く謝ってくる。
仕方ない、子供のやる事だと思ってここは大人らしく寛大に許してやろう。
「……まあいいです。それで?何の話ですか?」
「おう、高等学部の七不思議って奴だ」
ベーチェルは、何故か顔を近づけて声をひそめて喋る。
「七不思議?」
七不思議ってあれだろうか。
学校にいつのまにか浸透している怪談話。
音楽室のベートーヴェンの肖像画の目が動くとか階段が1段増えているとかいう夏定番のあれだ。
「ああ、俺も最近知ったんだけどよ。高等学部には色々噂があるらしいぜ」
ふーむ、この世界は何と言うか地球に近い慣習というか考え方が近いのが多い気がする。
俺の他にも地球からの転生者が居ると考えれば何ら不思議ではないが……そう考えても多すぎるような気もする。
この学園自体もそうだ。
制服も地球のブレザーに近いし、校則も一部を除いて聞いたことのある定番ばかりだったしな。
まあ、今それを考えても分かるわけでも無いしやめておこう。
今は、七不思議の方が気になる。
「それで、どういうのがあるんですか?」
「えーと、まずは……夜動く初代学園長の像だな」
二宮金次郎像みたいな感じだな。
「昇降口に学園長の像があるだろ?あれが夜動いてるらしいんだ。たまたま忘れ物を取りに来た生徒が目撃して襲われかけたらしい……と友達の友達が言っていた」
うわ、いきなり信憑性が無くなった。
大体、友達の友達ってなんだよ。って話だよな。
その後もベーチェルは、残りの七不思議も説明していく。
まとめるとこうだ。
1.動く初代学園長の像
2.異次元に繋がる図書室
3.無限廊下
4.すすり泣く女
5.人食い少女
6.神出鬼没の学園長
7.学園深部の邪神
8.永遠の生徒会長
定番のホラーっぽいのもあれば、ファンタジーっぽいのもあるな……ってちょっと待て。
「すみません、七不思議が8個ありませんでした?」
「え?まじで?……は!まじだ!やべえ、9個目の七不思議だ!」
俺の質問にベーチェルが指折り数えるとハッとした顔をしてそんな事を叫ぶ。
いや、単純に数え間違いじゃねーか。
もしくは、何か余計なのがあるかだな。
まあ、噂なんて曖昧なもんだし人によって知ってる七不思議が違うのもよくある事だ。
ていうか、さり気なく七不思議に混ざってる学園長が何とも言えない気分になる。
神出鬼没ってあれだろ。俺も貰ったあの鈴鳴らすといつの間にか現れるって奴。
まあ、それは種が分かってるので良いが気になるのは最後2つである。
「ベーチェルさん、邪神と生徒会長について詳しく教えてくれませんか?」
「んあ?あー、俺もそんな詳しく知ってるわけじゃないんだけどよ。邪神の方はあれだ。大昔、5人の英雄が邪神を倒したろ?本にもなってるあれだ」
「ああ、知ってますよ。僕もあの本は読んだことありますし」
「実は邪神は、完全には倒すことが出来なくて7つに分割して各地で封印してるって話なんだ。んで、その1つがこの学園に封印されてるって話なんだよ」
あー……アルマンドも、邪神を復活させるとか言ってたし恐らくは、1/7でもいいから復活させようとしてたのかもしれないな。
「ちなみに、それってどっから流れて来た噂なんです?」
「んー、いつの間にか流れてたって感じだな。まあ、教師とかに聞いても誰も知らないって言うし、そもそも邪神なんか封印してたらもっとピリピリしてはずだしな。これは、普通にただの噂だと思うぜ」
でも火のない所に煙は立たぬって言うしなぁ。
教師も知らないフリをしているだけかもしれない。
邪神復活を企む組織を見てるだけに、何とも不安になってしまう。
「んで、次は生徒会長だな。これも真偽は定かじゃないんだけどよ。高等学部の生徒会長がな、この学園が創立されたころからずっと同じ生徒がやってるらしいんだ」
まぁ、ファンタジーの世界だしあまり驚かないな。
不老な種族とか魔法とかもあるだろうし。
問題は、なぜずっと生徒会長をやってるか、だな。
この学園には留年が無いし、頭が悪くてずっと生徒会長と言うのも考えられない。
ていうか、頭が悪い生徒会長とか嫌すぎる。
確かに不思議ではある。
「んで、なんでそれが真偽が定かじゃないかって言うと……誰も見たことが無いんだよ」
「見たことが無い?」
「ああ、誰に聞いても生徒会長がどういう姿かっていう情報が無いんだ。この噂も出所が分からないって点では邪神と同程度の信憑性しかないな」
俺は、ベーチェルの話を聞き終わると考え込む。
最初は、暇つぶし程度に話を聞くつもりだったが、いざ聞いてみると気になる噂に限って信憑性が薄い。
「アルバ、アルバ」
俺と一緒に話を聞いていたアルディがヒソヒソと話しかけてくる。
「どうした、アルディ」
「今日の夜さ、七不思議探検に行こうよ」
アルディは、わくわくした様子でそんな事を提案してくる。
「え?でも、夜は外出禁止じゃんか」
これでも模範的な生徒のつもりなのであからさまな校則違反は流石にどうかと思うんだ。
「えー、いいじゃん。行きたいー!ヤツフサとかカルネージも誘っていこうよ!」
渋る俺にアルディは、ぶーぶーと不満を垂れる。
「何の話ですの?」
と、そこへフラムが話に入ってきたので俺とベーチェルが七不思議について説明する。
「ああ、私も聞いたことがありますわね。初等学部には無かったので不思議に思っていましたわ」
ああ、そういえば確かに初等学部では七不思議なんて聞いたことが無かったな。
そう言う点から見ても、七不思議は気になる点が多いな。
「ねえ、フラム!今日の夜、七不思議探検しようよ!」
「え?ですが……」
やはり、フラムも夜間の外出に気が引けるのか困ったようにこちらを見てくる。
「まぁまぁ、私に良い考えがあるんだって」
アルディはそう言うと、フラムの耳に顔を近づけてコソコソと何かを話す。
「夜中の学校で怖がれば、アルバに合法的に抱き着けるよ?」
「行きましょう!アルバ様!」
アルディが、何かを話した途端急に目を輝かせたフラムはズズイと近寄ってくる。
「ど、どうしたのフラム?急にそんなやる気になって……」
「アルバ様は気になりませんの!?なぜ、高等学部に入ってから急にそんな噂が流れだしたか!」
いやまあ、気にならないと言えば嘘になるが……一体、何がフラムをそこまでやる気にさせてるのだろうか。
「おー、いいじゃんいいじゃん。皆で行こうぜ」
話を聞いていたベーチェルも乗り気になって話に乗ってくる。
あー、何処の世界でも肝試しって人気なんだな。
仕方ない……3人が乗り気になってしまっては俺の力では止めることはできない。
「はぁ……分かった分かった。行くよ、行けばいいんでしょ?」
「よっしゃ、それでこそアルバだぜ!」
何がそれでこそなのだろうか。
アルディとフラムも笑顔でハイタッチをしてるし、そんなに肝試しが楽しみなのだろうか。
そんなこんなで、俺達は夜にこっそり学生寮を抜け出し、夏前ではあるが肝試しをする事になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます