百鬼絢爛(骨組み版)

赤城 良

覇王と呼ばれた伝説の鬼、その娘の物語(加筆修正版)

 妖怪変化とは人智を超えた不思議な化物のことを指す言葉である。妖怪変化と四文字で表すことができるが、彼らは多種多様な存在であり神秘と言っても良い。


 つまり姿形、能力はそれぞれで決して一括りには出来ない。まず妖怪とは日本で伝承される民間信仰などにおいて人の理解を超える異常な現象や、それを起こす非日常的、非科学的な存在である。

 あやかし、物の怪、怪異、化物、魔物などと言われるのが一般的である。現在では都市伝説で彼らは多く語られている。


 昔は暗闇に紛れるでもなく妖怪変化の者達は存在した。前述の言葉の通り昼夜を問わず人々の前に現れていた。人を驚かすくらいの者達ならば何も問題はないが、時として人を襲い喰らう者達もいた。

 人々は彼らに怯え震えた。しかし、何も出来なかったわけではない。古来より伝承されし退魔の術が人々を救う。


 その歴史は古く中国で陰陽五行思想を元に五世紀から六世紀、飛鳥時代に日本にもたらされ神道、仏教、道教などから影響を受け独自に発展して陰陽道として成り立った。

 陰陽道の起源には諸説あるが、これが最も有力とされているものである。


 では、退魔と言う言葉が広まったのはいつの頃なのか? 古い時代から存在した言葉ではあるが、主に文筆などの作品で用いられるようになったとのことである。


 退魔の者達は妖怪変化から人々を救うことを生業としていた。しかし、真に妖怪変化に対抗できる者は少なかった。彼らは退魔師、祓い屋、憑き物落としなどと呼ばれ、また、陰陽道を扱う朝廷に仕える官人である者達は陰陽師と呼ばれた。


 陰陽師は国としての進むべき道を占うなどの政治的な役割が多く、朝廷内には陰陽寮が設立されるほどであった。


 だが、人々は時が流れると同時に妖怪変化の存在を忘れてしまったのである。科学が存在するようになってからというもの、妖怪変化を信じる者は少なくなってしまった。これに比例するように妖怪変化も数が減少していった。


 退魔の者達も数は減少し、受け継ぐ者達も今では百にも満たない。だが、妖怪変化は未だ確かに存在し、時として人に牙を向く。彼らに対抗し、人々を救う退魔の者達は終わりなき戦いに身を投じている。


 そして、時は今日こんにちまで遡る。


 ある少女がいた。額に鮮やかな朱色の二本の角を生やし、妖怪総大将が最も恐れ、多くの者が覇王と呼称した伝説の鬼、その一人娘。


 彼女が恋に落ちた。鬼である少女が人の子に。


 ――美しい鬼が恋に落ちた――


 そして、彼もまた、彼女に恋をした。人である子が鬼の少女に。


 ――美しい鬼に恋をした――


 しかし、今から語られるのは、二人が恋に落ちた時の、恋物語ではない。


 この物語はその続きである。


 これは鬼の少女が恋をしていた時の、友人達との物語である。

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