第26話 初日の午前

次の日。

 

 いよいよ学校が始まる。

 

 この世界で一週間は七日間ある。

 そのうち五日間は学校。

 休日が週二日だ。

 とはいえ、俺は寮生活なので休日も学校にいるから、授業がないだけでずっと学校だ。

 

 授業は座学と実技がある。

 最初のうちは座学のみだが、しばらくすれば実技が始まる。

 一年生のうち基本的なことを習い、進級していけば個人の属性にあった選択科目へと移り変わっていく。

 そこで冒険者を目指す者、職人を目指す者、それに商人や教師、士官の道を志す者に研究者等へ進む者とに別れていくのだ。

商人なんかは魔法が関係あるのかとも思ったが、色々と危険を伴うこともあるらしく、そのための最低限の身を守る方法と経営学など商人としての知識を学べるようだ。 

 他の職人に関してもまた然りだ。

 

 今日は学校初日ということで、授業はない。

 支給された淡い緑のローブに身を包み、指定の教室へと俺は向かう。

 支給品のこのローブはクラスを示している。俺のクラスカラーだ。

 

 クラスは属性で表される。

 火(赤)、水(青)、風(緑)、土(茶)、闇(黒)、熔(燈)、氷(水色)、樹(淡緑)、雷(淡黄)、毒(紫)の十クラスである。

 クラスの属性に意味はない。識別するためにつけられているだけであり、誰がどのクラスになるのかはランダムである。

 それでもやはり、クラスによって人気不人気に別れてしまう。

 人気なのは四大元素カラーだ。そして、シックな黒と鮮やかな紫も上級生にあがるにつれて人気がでてくる。

 不人気なのはもちろん"樹"クラスだ。

 淡い緑のローブを着込むと、何故か蔑んだ目や哀れんだ目を向けられるとか向けられないとか。

 

 ちなみにクラスカラーの発表とローブの支給は、昨日の食事会の最中に行われた。

 楽しくしている雰囲気を、人気のカラーに選ばれたことでより楽しくするクラスが多い中、うちのクラスはちょっとお通夜ような空気になってしまった。しかも、誰が悪いわけでもないのに樹属性の俺が引き当てたみたいな感じになってちょっと責められたし。

 

 まあそのおかげというか、クラスカラーに興味が流れたせいか、模擬戦での俺がしでかしたことは同級生の間ではうやむやになったようだ。

 

 クラスカラーに光(金)と聖(銀)がないのは、コスト的な問題で外されたとかなんとか。

 まあ着られても目がチカチカしそうだし、目立ってしょうがないよね。

 

 と、考えごとをしていると俺は教室へ到着した。

 そっと扉を開け中へ入る。


 教室は教壇と教卓、それに巨大な黒板があり、その向かい側に半円の階段状に並んだ長机とイスがあった。

 

どうやら俺が一番最後の到着だったようで、みんなの視線がチラリチラリと送られてくる。

 しかし、興味が無くなったのかすぐに視線は戻った。

 入ってくる人を気になって見たというよりも、そろそろ来るであろう先生が気になるのだ。

 

 と、一人手招きをしてる奴がいる。

 マホンだ。

 最前列の端っこに座っている。

 マホンの隣が唯一空いている席のようで、俺に選択肢はなかった。

 「よお。 来るの遅かったじゃないか。 お前が一番最後だぞ」

 「みたいだね。 みんな早いな…」

 「初日でみんな気が早ってんじゃないか? と、先生が来た」

 

 先生の登場だ。

 教室が静まり返り、ピリッとした空気になる。

 

入ってきたのは水色の髪をした男性であった。

 俺が見たことがあるような気がした先生だ。

 顔見ても思い出せない…。

 誰だっけ。

 

 見た目は若そうに見えるが年令不詳だ。

 手には片手に薄い黒い本のような物を持ち、もう片方に杖を持っていた。

 

 「みなさん、おはようございます。 先生の名前はマーリンです。 これから宜しくお願いしますね。 では━━」

 

 教壇に上がると先生は挨拶を済まし、あの黒い本を広げた。

 そして一人一人の名前を読み上げ始めた。

 呼ばれた者は大きな声で返事をする。出席確認だ。

 あれは名簿だったようで、返事が聞こえたらチェックをいれているようだ。俺は急に呼ばれて、思わず声がうわずってしまった。

 それにしても、あの顔……マーリン……んー。

 

 「……なぁ、マホン。 あの先生ってさ、見たことない?名前も聞いたことあるような気がするんだけど……」

 「んあ? 見たことはないけど、マーリンっていったら大魔導師マーリンと同じ名前だね」

 

 有名だぞ?と続けながら、マホンは先生の方へ耳を傾けて呼ばれるのを待っている。

 

 ああ、そういえばマオに歴史を教えてもらっている時に名前を見たな。しかも、似顔絵のような挿し絵も見たけど、似てるんだよな…。

でも、大昔の人だから生きてるわけないもんな。

 

 「━━以上です。 みなさん、ちゃんと出席できたようです。 えらいですね。 それでは、えー、連絡事項ですが……何もなかったですね……。 授業も明日から始まります。なので、この後の予定ですが、校内をみなさんで一緒に見て回ります。施設の場所確認をして、それで本日は終了となります。 分かりましたかー?」

 『はいっ!』

 

 みなさんお返事のいいことで。

 横にいるマホンは、飽きたのか頬杖をついている。

 

 「では行きますよー」

 

 

 ┼┼┼

 

 俺達はゾロゾロと先生の後をついて行く。

 他のクラスも見回りをしているらしく、道中同じような集団をいくつも見かけた。 

 

 まずは図書室。

 大陸一の蔵書数を誇る。

 それだけに室内は広大だ。高く広くビッシリと積まれた本。

 ここから欲しい本を探すだけでも大変だ。

 期限付きだが本の貸し出しも行っている。返却が間に合わないと催促がくるのだが、これを無視し続けると罰金が発生。さらに無視し続けると学校から除籍されてしまうのだ。

 

 それと、噂であるが禁断の書物もあるらしい。あくまで噂だが。

 それは魔法書であったり、あるモノを封印した書物であると言う。地下の奥深くに眠るその本は、ここの王様であっても見ることは許されない。らしい。

 

 次に向かったのは実技訓練所だ。

 俺はもちろん知っているから先生の説明は右から左へ聞き流している。

ここは学年に関係なく利用することができるが、混み合っては困るから事前に予約が必要なようだ。

 とはいえ、めちゃめちゃ広いから予約がとれないなんてことはほぼほぼないらしい。

 今も目の前で学生が軽く模擬戦のようなことをしている。

 体格からして上級生だろうか。

 

 ちなみに俺が壊した壁は既に修復されていた。

 

 訓練所に併設されているのは医務室だ。

 そこには医者が一人が常駐している。

 ここはケガで来る人はいない。

 ケガは即死じゃない限りは訓練所で治るから、魔力欠乏になった人や病気の人が利用するようだ。

 この回復の刻印ルーンが普及すれば、あんなポーションや回復魔法もいらないのでは?と思ったけど、そんな簡単なことじゃないらしい。

 この刻印は大昔の大魔導師様が作ったもので、おいそれと真似できるような代物ではないみたいだ。見えない文字も使われているようで、まず解読ができないとか。

 

 しかしこの医務室、並べられたベッドの数がはんぱじゃない。

 今もいびきをかいて寝てる人が数人見えるが病気には見えないな。ここはもう昼寝をするための利用場か?休憩所と名称を変えたほうがいいかもしれないね。

 

 その後は浴場と食堂も案内された。

 もちろん既に利用している俺は話を聞いていない。

 特に秘話などもなかったからね。

 初めて見たであろう生徒達は例に漏れず驚きの声をあげていた。

 

 それからいくつか巡ったが、正直覚えていない。というか、覚えられない。だって、広すぎるんだもん。

 

 そして教室へと戻った俺達は、先生から全員に地図が渡された。

 地図を見て分かったが、施設はざっと数えただけでも三十以上あるな。

 これは覚えるのは無理だ。

 

 そして今日はその地図を最後に終了となった。先生が解散と言うと、みんな思い思いに散っていった。

 いくつか既にグループができているように見える。

 ガヤガヤと会話も聞こえてきた。

 

 気づけばもうお昼の時間で、クラスメイトは友達同士で食事を楽しむようだ。

 俺は出遅れたか?


それにしても、だいぶ練り歩いたようで足に疲労感が残っている。

 その間、俺はマホンとだけしか話をすることができなかった。

 たいした話もしてないんだけどね。

 クラスには顔見知りはマホンくらいしかいない。

 出来上がった輪には入りづらいし。

 他のクラスには目をつけられたりもしてるし、罵声浴びせられたし……俺、友達できるかな……。

 

 まあなるようになるか。

 

 食堂で軽く飯を食べたら、午後はギルドでマホンと待ち合わせだ。

 ちなみに俺は昼飯は一人だ。

 マホンは解散の声と共に既にその姿を消していた。

 だから仕方なく一人だ。

 まあ一人が嫌なわけじゃないんだけどね。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る