第17話 依頼を受けにいこう
「━━なんとっ!」
完治したスキンを見たマスターは、限界まで目を見開いていた。
マリンさんも隣で同じ顔をしている。
「もう大丈夫。 じゃあ約束通り秘密でお願いします」
「んあ? ああ。 それよりもあれはなんじゃ……。魔法なのか?」
「そうですよ。さっきも魔法って言ったじゃないですか」
「いや、まあそうなんじゃが……樹属性魔法なの…か?」
「そうですって。それじゃ失礼しますね━━パージ」
「あ、おい━━━」
まだマスターは何かを言いたそうであったが俺は無視して杖を消す。
《月光草》は既に枯れていた。
本来、満月の出る日にしか咲かず、月の光がなければ育つこともない。
夜には光輝く星々はあるが、この世界には月と呼ばれるものはないのだ。
俺は鍛錬場をあとにした。
┼┼┼
数分後。
「━━ここは……」
倒れたままのスキンが目を覚ました。
ギルドマスターとマリンがヴェルデの背中を見送り、一旦スキンを移動させるかを話始めた矢先だった。
「目覚めたようじゃな」
「ああ、よかった」
二人はスキンのケガが治ったことに安堵したわけではなく、運ばなくて済んだことに心から喜んだ。
「……負けちまったか。 しかしどういうことだ? 俺は確か━━」
「スキンさん、これを」
自分の体の具合を確かめるスキンに、マリンは空のビンを四本渡した。
「これは?」
「それはハイポーションの空ビンじゃ。 スキンよ、一本あたり金貨五枚。 しめて二十枚じゃ。 今元気なのはそれのおかげじゃぞ? お前のためになけなしの残りを全て使ったんじゃ。 しっかり働いて返せよ」
「…………」
スキンの肩にポンッと手を置くギルドマスター。
しかし、既に頭の中は小さな二人のルーキーでいっぱいだった。
そして、約束通り秘密とするためにケガについてはハイポーションのおかげだということにしておいたのだ。
スキンのために使ったことは間違いないのだから、嘘ではない。
それに対しスキンは、言葉もなく項垂れた。
「……御愁傷様です」
そして一人呟くマリンだった。
┼┼┼
あれから一直線に外へと出ると、小腹の空いた俺はその足でもう一度南西地区へと向かった。露店で食べ物を買い、食べ歩きながら腹を満たしたのだった。
気づけば日は沈み、空は闇のベールに覆われていた。
しかしここは明るい。
お祭り騒ぎはまだまだ終わらないのだ。
昼夜問わず賑やかで、灯りが消えることはない。
宮殿もキラキラときらびやかに輝いている。
俺は夜の街を散策するほどの元気がなく、疲労もピークになり寮へと戻ってきたのだった。
「はぁ。ただ買い物に出ただけなのに疲れたな……お腹いっぱいだし寝るか…いや、汗流したいな…。……たしか大浴場だったか…行こうかな……行こうか…行こ……」
そのまま俺は深い眠りへと落ちた。
次の日。
窓から差し込む日の光に目を覚ます。
「………やべ。 そのまま寝ちまったか……」
クンクンと体の臭いを嗅いでみると、やっぱりちょっと汗臭い。流したいな……。
こんな時に水属性魔法って便利だよなー。といっても、この世界の魔法基準だとどうかわからんけどね。
体を流せるのは大浴場か。しかし、こんな朝から入れるのだろうか。
そもそも説明を受けていない俺には場所がわからない。
う~ん。
一応、水を蓄える植物や枝を切るとシャワーのように水が吹き出す木などもあるのだが、使用するにはここでは出すことができない大きさになってしまう。
とりあえず、ちょっと体がベタつくけど流すのは夜まで我慢することにして、せめて臭いを消すだけでもしておくか。
俺はいつものように魔法で杖を出す。
その手の中へ現れた杖を使い、もう片方の手へ振るう。
「
すると一輪の黄色い花が手の中へ現れた。
数枚の花弁が、中心に向かい渦を巻くように円く型どった花だ。
魔界で通称『レインボーパフューム』と呼ばれている。
この花は七種類の色があり、黄色を除いた六種類は甘く強い香りを発する。
その香りを嗅ぐことでさまざな効力を得られるのだ。
青色は『鎮静』。ジルヴァラへ送った花束にも混ぜたのがこれである。
そして、唯一毛色が違うのが黄色だ。
黄色の花は他と違い無臭なのである。甘い香りはおろか一切匂いがしない。それ故に、香りから効果が得られるわけではなく、花弁を食べることで体に変化があるのだ。
得られる効果は『消臭』。花弁を食べれば身体中の臭いが消えてしまうのである。ただし、汚れが消えるわけではないから要注意だ。その効力から、動物狩りをするハンターには重宝されていた花であった。
俺は花弁を一枚食べると、もう一度臭いでみた。が、自分ではよくわからない。
…まあ、大丈夫なはずだ……。
気持ち悪さは少しあるが、とりあえずこれでいいだろう。
お腹のほうは、昨日食べてすぐ寝てしまったために若干胃もたれ気味だ。
このまま二度寝したい気持ちもあるが、明日からは学校だからやれることをやらなければ!
よし、となればやることはあれしかない。
もちろん冒険者ギルドだ。
初依頼受けちゃうぜっ!
俺は杖を
┼┼┼
俺は今、入口前へと到着したが一歩を踏み出せないでいた。
昨日のことがあって何だか少し入りづらいのだ。
俺が戦ったわけでもないし、悪いことをしたわけでもないんだが……正直、今はマリンさんとギルドマスターにだけは会いたくなかった。
「おい。そこにいたら邪魔だろうがっ! 入るなら入れ!」
ドアの前でウジウジしていたら後ろから冒険者らしき人に押されてしまった。そのままの勢いで中へ入ると、昨日と同じ光景が広がっていた。
いや、同じではなかった。ドアの音に反応したのか中にいた人達の時間が止まったかのように会話や動きがピタリと止まり、視線が一斉に俺へと集まってきた。
そして俺を見るなり、舌打ちとか「なんだよ」「そっちかよ」という声がちらほらと聞こえ、時間はまた動きだした。
なんだよってなんだよ。俺だよ。
おそらく、というか確実にマホンを待っている感じだな。
スキンを倒すところを多くの冒険者が見ていたからね。
質問したいことがあるのか、勧誘なのか、俺には全く関係ないことだ。関係ないんだから、俺を見て舌打ちするなよ。
イラッとしちゃう。
まあいい。
今日は見た限りギルドマスターもマリンさんもいないっぽい。
ギルドマスターは忙しいから、いるほうが珍しいようだがマリンさんは休暇なのであろうか?スキンの姿も見えないな。
スキンは昨日の今日で顔を出しづらいのだろう。
とにかく、今は会いたくない人達が誰もいなくて助かった。
さてと。
依頼書を見てみよ。
俺はベタベタと依頼書の貼られた掲示板の場所へと移動した。
うーんと……。
どうやら銅ランクで受けられる依頼は雑用系が多いようだ。
成功報酬はどれもはっきりいって安い。
引っ越し手伝い、住居解体補助、ペットの捜索、子守りと、ここまでは王都内での仕事。
薬草の採取、材木採取、薬の原料となる様々な植物の採取と、王都外での作業は採取系だ。
狩りや討伐系にならないと二束三文と言えるだろう。
一応、採取系は量や質により報酬は上乗せされるようだ。
ちなみに鉄ランクで動物の狩り、魔物討伐系は銀からとなっている。
まあ上のランクのことを考えても仕方がない。
できる範囲でやるだけだ。
それにしても、やるなら採取系だな。
なんと言っても俺には樹属性魔法があるのだ。
ここで使わずして何とする。
ということで、俺は一枚依頼書を剥がした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
・ランク:銅
・依頼:薬草の採取(永続クエスト)
・詳細:ポーションの原料となる薬草の採取。
・報酬:薬草十本につき銅貨一枚
ハイポーションの原料となる上薬草なら銀貨五枚
・期限:━
・場所:━
・ペナルティ:━
・依頼人:冒険者ギルド
~~~~~~~~~~~~~~~~~
期限もペナルティもなしだ。
常に薬草は買い取りをしている。それほどに不足しているのである。
特に上薬草はなかなか見つからないために高騰している。
基本的に銅ランクの依頼は安いが、この薬草採取依頼、上薬草をたくさん採取すればおいしいと言える。
まあ、普通はなかなか上薬草なんて見つからないから、見つかればラッキーくらいの考えなんだろうが。
俺は受付嬢へと依頼書を渡した。
「ヴェルデ・ブルノーブル様、こちらは永続クエストになります。 永続クエストは発注受注という形はなく、依頼品をお持ちくだされば報酬として買取りさせて頂きます。ですので、依頼書を剥がして持っていただかなくても大丈夫です」
あれ?そんな説明あったかな…。
永続クエストということは誰がやっても無くなることはないんだな。
だから複数の人がその依頼を取り合うの意味もないから紙を剥がす必要もない。剥がす必要もないないから、依頼として受けることもない。ただ、永続クエストで指定されたものを持ってくれば買取りしてくれると。
要するに、永続クエストというのはギルド側が欲しいものをお知らせしているだけだ。依頼であって依頼ではない。
「わかりました。 ありがとうございます」
「はい。 ではお気をつけて」
俺は依頼書を元の場所へと貼り直すとギルドをあとにした。
しかし、あの受付嬢もキレイだった。
というか、ギルドにいる受付の人はみんなキレイであった。
冒険者側にも女性はちらほらいるがみんなガチムチ系女子で、それを見てしまうと可憐に見えてしまう。
露出の多いアーマーを着こんでいても色気は皆無だ。短髪にムキムキで頬や身体中の至る所に傷がある子はもう、男そのものであった。
ただし、それは剣士系女子であって、ローブで全身を隠した人見知り系女子、いや、魔法師系女子は素顔が見えなかったからそれには限らないが。
そんなことを考えながら歩いていると正門へと到着した。
「坊っちゃん、一人で外出かい?」
そこにいる門番が話しかけてきた。
来たときにいた門番とは違う人だ。
「はい。外に出してください」
「うーん……一応、この周辺にはそこまで強い魔物はいないはずだが外は危険だぞ?」
「はい。 承知の上です」
「……わかった。 坊主は身分証明書はあるか?出る時は手続きはいらないが、入る時に必要になるからな」
「あ、これでいいですか?」
俺は冒険者登録カードを見せた。
「ああ。 それを持ってるなら入国はスムーズにいくだろう。 お金もかからんしな」
どうやらこのカードがなければ入国手数料も取られたようだ。
イースト家ありがとう。先生、ゴリさんありがとう。
「では、行ってきます」
「気を付けていって来な!」
俺は手を振りながら外へ出た。
そこには鋪装された街道と手付かずの森がどこまでも広がっていた。
俺は目を瞑り、美味しい森の空気を肺いっぱいに吸い込む。
やっぱり自然は気持ちいいね。
疲れも胃もたれもすっ飛んでいく。
すると、後ろからあいさつをされた。
「お疲れさーん」
「がんばれルーキー」
「ケガすんなよー」
「がんばれや」
「お先に」
そんな俺の脇を通り抜けていく五人組。口々に言葉をかけてくれたのだが、俺は誰一人として知らない。おそらくギルドで例の一件を見ていたであろう人達なのだ。
スキンとは違って温かみのある人達だな。
誰かは分からないけど、ありがとう。
「あなた方もケガをしないようにっ!」
「ああっ! じぁーなー!」
リーダーらしい人が返事をし、パーティーはそのまま森の奥へと消えていった。
俺はそれを見届け、数分してから同じ森へと足を踏み入れることにした。
では、早速薬草を探しますか。
魔法は使わず、とりあえず自然の物を見てみたい。
と、一歩踏み出したところで突然森に響き渡る悲鳴。
「きゃあああぁぁー!!」
えー、いきなりこんなですか。
まるで本であるような展開じゃん。
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