第95話「甦る記憶と空気を読まないクマ」
......
思い出される記憶。
男の手に引かれて、夜の獣道を一心不乱で進む。
ワゴン車の中で見てしまった仲間の死体、入滅することに躊躇してしまった自分の情けなさ。
二依子を騙していた罪悪感で一杯の自分が、何かに目覚めて逃げ出したという現実。
「二人で逃げよう......スズハ! 」
そう言った彼と歩み、遂に民家の光が見える場所まで来た......
だが。
舟の霊体に見つかり、放たれた光を浴びて、彼女は意識を失う......
儚い逃亡の記憶。
......
「何よこれ......こんなこと私がするハズ無いわ! 」
覚えのない行動の記憶、断片的に思い出す恐怖。
スズハはフラッシュバックした記憶が、自身の理念や行動から外れた行為をしていることに困惑する。
「でもどうして、キール君(日下部喜一)と逃げ出した覚えが......あるの?! 」
ライフルをスズハの赤いプラモデルのボディに、突き付けた教団亡霊パープルは、首を横に降ってこう言った。
「アドミニストレータはね......君達二人に強い暗示をかけて、逃げ出した記憶を一時的に忘れさせたよ」
「だけどそのせいで、キールは情緒不安定な亡霊になって、君はちょっとヒステリックな亡霊になった......それはもう俺達は扱いに困ってた」
後ろの航空型ボディのプラモデル、ポリマーが続いて言う。
「でも霊体の意識を保つにはしょうがない......不安定な精神状態まま憑依してもらわないといけない。」
パープルは自身のボディである紫のプラモデルに、航空型であるポリマーのボディをジョイントを繋げて言い放つ。
「そのまま、君達に最後まで仲間の"ふり"をしてもらってたんだ、舟の霊体の洗脳能力を使ってね」
パープルが告げた真実にスズハは愕然としながら、口をパクパクさせて困惑する。
「キールの処理はもう終わってると思う......だから次は君の番だ、秋山......」
突き付けたライフルに霊力を込めて、パープルは最後にこう言った。
「仕方ないだろ"天国"に生者は連れて行けないからな」
パープルのライフルに霊力が走る!
内部の針弾が入っているであろう、それが勢いを持って飛び出そうとしている瞬間!
彼は動いた!
「させるかあああ!」
例え亡霊であっても、この状況に対応することは難しい。
脳から命令を伝達されて腕や脚が動く様に、霊体がボディを動かすにはタイムラグが存在する。
だがそれはボディを通して行動すれば間に合わない訳で......
「 ! 」
ボディを通さない手段を取ることが。
ザジ達には僅かに可能なのである。
「なっ......!」
スズハに向けて、ザジが伸ばしたのはボディの腕ではなく、霊体そのものの腕だ!
主に移動手段として使え、「引っ掛けて引き寄せる」程度の小さいポルターガイストが行える亡霊の小技だ。
「何! 」
スズハが引き寄せられライフルの射線からずらされると......
「うりゃああああ! 」
ユナのクマボディが飛び込んできて教団亡霊のパープルを攻撃。
パープルのプラモデルボディにかすり傷を与えて、突き放した。
「ちょっと! 誰が助けてって言ったのよ! 」
スズハは困惑しながらも救出される。
「俺には見過ごせない、敵であっても生者だしな」
ザジがスズハに語りかける。
「そのボディ......一度壊して悪かった、本当に済まない。これだけは言いたかったんだ」
「......」
スズハが困惑していた顔から、急にそっぽを向いてむくれた顔になってフンっと、ザジに顔を隠して言う。
「しょうがないわ、今は許してやるわ。」
その様子にザジは礼を言う。
「ありがとう」
ザジとスズハのやりとりに、ユナは電光のごときツッコミ(ツンデレか! )を見せたい所だが、パープルを相手にしているためそうもいかず、もどかしい。
「さあ、これでこっちのモノよ! 相手をしてやるからかかってきなさい! 」
だが優位に立ったという現状を誇示するために、ユナはもどかしいながらもパープル達に挑発する。
「ふふふ......」
謎の微笑みを浮かべるパープル。
「ライフルを突きつけたのは、撃つためだと思ったかい? 」
「実は違うんだな! 」
この突然のパープルの発言は、ザジやユナ、スズハまでも驚かせる。
「スズハのボディのデータカードには、あらかじめ排除出来るように細工が仕込まれているんだ!」
「ほうら! ボディの背中を見てみろよ! 」
パープルの発言を聞き、ザジとユナはスズハのボディを見た。
すると......背中から煙が!
「 ! 」
内部の回路が焼け始めてるのだ!
「ははは! 終わりだな秋山! 中のデータカードが焼けるぞ! 」
パープルが邪悪な微笑みで叫ぶ、そしてボディに指を指してこう言った。
「その回路はお前の霊力から、直接電力に変えて燃える様に細工してある」
そして高らかに腕を広げて、悪どい素振りで笑いながら言う。
「僅かな霊力でも起動するぞ! 助かりたいなら、"ボディから霊力を消す事"だな!」
「それが可能なら軛データも外れて助かるぞ!」
「それが出来るものならなあ! やってみろよ! 」
そのパープルの言葉に、何故か即座にユナが反応する!
「つまり! 焼ける前にボディを破壊して、カードに霊体から流れる霊力を断ち切ればいいんだよね! 」
「「 え! 」」
唐突なユナの理解に、その場に居た全員が首をかしげる。
「理解したわ! (よくわかってない)」
ユナはそう言うと、真っ先に行動に出た。
クマボディの手から霊糸が放たれ、スズハのプラモデルボディに巻き付くと。
そのままジャイアントスイングするかの如く、スズハをブンブン振り回し始めた。
「ちょっと! 一体何をする気! 」
クマのボディからはみ出たユナが、親指をサムズアップして言う。
「ボディから霊力を消す! つまりデータカード焼ける前に"ボディを破壊"して」
「霊体を解き放てば、回路が止まって霊体も体に戻って WIN WIN よ! 」
「ちょちょちょ! 待っ......」
ユナは困惑するスズハを他所に、スズハのボディをスイングしながら最大霊力で、ブースターを吹かして大ジャンプ!
「いっくよー! 」
「ハイ・スピリット! 熊(ベアー)・ドライバー!! 」
ここでユナから繰り出される投げ技は、正にレバー二回転(?)は必要な程に豪快で。
「ドタマカチ割れろおおおおお! 」
......かつ衝撃力を霊力で増加させ、高速回転しながら暴言を吐きつつアスファルト目掛けて、一気にスズハを叩きつけたのである!
「ぎゃあああああああ!」
スズハの情けない叫びが、周囲に木霊した。
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