第93話「ザジの帰還」


 ザジの今の記憶は、殆ど死後の亡霊である記憶が占めている。

「未練」が有るとするなら、亡霊として発揮した自身の霊力だろう。

 突出していると思われる程、ザジの亡霊としての性能は高い。

 

 (本当に......なんにも気にしていなかった)

 

 亡霊成り立ての頃、自分はここまで亡霊であることに充実感を覚える事に驚き、とても喜んでいた。

 

 (正直、俺のプラモスピリット超凄い! とか中二病っぽい事しか思ってなくて楽しんで亡霊してた)

 

 (あの日までは......)

 

 亡霊生活に充実感を覚えたザジだが、ある日突然、霊体から光を感じとる......

 

 (もう十分に楽しんだ......そう思ったんだ)

 

 その光は全身に広がっていく。

 周囲には祝福する精霊の様な光の粒が舞う。

 

 ......その日。

 

 

 

 ザジは「成仏」した。

 

 

 

 いや......したはずだった。

 

 だが出来なかったのだ!

 

 光は次第に失われ、再び亡霊としてのザジが立ちすくんでいた。

 

 (どうなってるのか理解出来なかった、どうしようもない虚無感に襲われた)

 

 未練も何もない、只の亡霊が一体何ゆえ成仏に届かないのか......

 何度も成仏の光を見ながらも、彼の成仏は成し得なかった。

 

 (その折に二年前の二依子の事件に遭遇した......)

 

 その激しい事件後、ザジは二依子の家から立ち去る。

 

 (亡霊が居るには明るすぎる......)

 

 二依子の家庭の暖かさに負い目を感じ、再び一人の旅路を決意したザジ。

 

 そんな彼の「いつ果てるかも知れない旅路」に転機が訪れる。

 

 亡霊コミュニティ「希望の船」号。

 

 つまりはキャンパーの面子との会合である。

 そこで彼は老人亡霊「五月人形」師匠に本質を見出だされる。

 

「単純に"それ"を言うならな......ザジ、それは御主の......」

 

 

 

「「天性の"宿命"じゃ!......」」

 

 

 

 この時、ザジは正直......

 

「何、適当ほざいてるの? おじいちゃん死んでから尚、霊体ごとボケちゃった? 」

 

 ......とか思ってたが。

 

 自身の気にしていた事の答えがあっさり出てきた、老人亡霊の年の功に感心した。

 

「生きている時の"宿命"なら、その身に任せるのがよかろう! 」

 

「だが......これは死んでから現れる"宿命"と見た! 」

 

「人知の及ばぬ事柄故に、ワシには "何も" わからんが......坊主は宿命に打ち勝つ為に強くあるべし! 」

 

 なんやかんや適当語りだが、五月人形師匠は成仏するまで、ザジに"持てる業の全て"を教えていった。

 

「師匠......」

 

 

 

 (......)

 

 

 

 舞台はザジの記憶から戻り、再びレストルームコアであるザジのオリジナルボディの前に変わる。

 

「宿命......か」

 

 気がついたら、ザジの霊体の修繕は終わっていた。

 

 心配そうな面持ちのフォッカーやパルドが、ザジに問いかける。

 

「大丈夫なのか? 霊体は保ててるか?」

 

 フォッカーから心配されたザジだが、元気な表情で無事をアピールする。

 

「何でかな? 今更急に師匠の顔を思い出したら霊体が治ってたよ......」

 

 レストルームの奥から、ザジのオリジナルボディがリフトアップする。

 

「行けるかザジ? そろそろユナちゃんがヤバい! 新たな敵の亡霊二人に囲まれそうだ! 」

 

 パルドの監視の先では、教団亡霊スズハと交戦していたユナの姿があったが......

 

 この状況に参戦する影有り、他の教団亡霊の横槍が入ろうとしていたのだ。

 

「ハッチオープン! ザジ・オリジナルボディ、カタパルトに接続! 」

 

 パルドの掛け声で飛行船ドローンが開き、中からザジが姿を現す!

 遂にオリジナルボディでの出撃を行うのだ。

 

「いいか......わかってると思うけど、オリジナルボディだからな! 完全に壊れたら最悪霊体も維持できないぞ! 」

 

「うん、覚悟は出来てるよ! ......出して! 」

 

 カタパルトの圧縮空気が、ザジのオリジナルボディであるプラモデルを射出する!

 

「ザジ、THE・GREAT・KNIGHT......出撃する!」

 

 飛行船ドローンから射出された藍色のロボットプラモデル、THE・GREAT・KNIGHTは豪快にファントムブースターを吹かして、一直線にユナの救援に向かって行った。

 

「......師匠、思い出したよ」

 

「宿命......それを成し得るまで、俺は戦う......」

 

 少年は再び"直情ボーイ"として戦地に降り立つ!

 

 ******

 

 場面は再びユナの方に......

 

 ユナ対スズハの戦いは、以外にも「ユナの優勢」で事が進んでいた。

 

 霊力が枯渇しながらフラフラで槍を構えるスズハ、舟の巨大霊体からの霊力供給が無い状態で戦うのは、実は初めてらしい。

 

「ふざけないで! あ、貴方本当に"生き霊"なの!? 」

 

 スズハは疲労困憊の表情で、ユナのクマのぬいぐるみボディを攻撃する。

 

「よっと(回避) 残念でした! 」

 

 ぬいぐるみの柔さは時に異常な機動性を産む、まあその分槍なんかに刺されたら、串刺しが確定するわけだが。

 

「おやあ? (ニチャア的笑顔) スズハさん、もうグロッキーですかあ......」

 

 もはやヒロインとはなんだったのか、そう思わせる策士の顔でスズハを煽りよるユナ。

 

 (時間稼ぎ......出来てるよね私! 重要っぽい敵の亡霊をここまで抑えてるなんて、大金星よ! )

 

 (でも、よく見たらスズハさんって......本当に亡霊? かなあ)

 

 ユナはスズハの能力に疑問を持ち始めた、いくらなんでも亡霊相手に優勢に成りすぎている。

 スペック上、ユナは生き霊にしては「強い方」である。

 何故なら......

 

「ボディの中から別に霊力が供給されてる! こんなプレイヤー(生き霊)始めてだわ! 」

 

 悔しがるスズハが激しく怒りて曰く、声を張上げ抗議する様に叫ぶ。

 

 ユナはその抗議を静かに見ながら、スズハに見出だされた自身の能力を確信した。

 

「あー、やっぱり私の霊力って半分位"こっち"から出てるんだ、納得した......」

 

 「こっち」とは、ユナをぬいぐるみに縛り付けている"紙札"の事である。

 つまり別の供給霊力を体内に、保有している状態だったのだ。

 

「そりゃ、生き霊にしては強いって言われるわー、"札"って霊力出してくれるんだって思ってなかったわー」

 

 だがここで、別の方向からユナに射撃攻撃が飛んでくる!

 

「 ! 」

 

 飛んできたボウガンの矢が、ユナのバックパックシールドに弾かれた。

 しかし、ユナは側面に新たな敵を迎える事となる。

 

「ヒドランさん! (スズハの事)加勢に来たぞ、薄汚い悪霊のクマめ! 覚悟しろ! 」

 

 やって来たのは教団亡霊パープルだ、ねぱたに吹き飛ばされた彼だが、帰還の際にスズハを確認した様子。

 

「ぎえええええええ! (調子に乗ってすいませんでしたあああ! )」

 

 物凄い渋い顔のユナ、やはり小物であった。

 

 そして更に別の角度、上空からのミサイル攻撃!

 

「わわっ! 」

 

 ユナは咄嗟にブースターを切り離して犠牲にする。

 激しく爆散するブースターパーツ、そのミサイル攻撃の主はゆっくり降り立った。

 

「ヒドラン、パープル、迎えに来たぞ! 」

 

 先ほどアドミニストレータに、通信で二人の回収を頼まれた教団亡霊ポリマーの登場だ。

 

「あっ......(絶望)」

 

 ユナは急に状況が「悪化ってレベルじゃねーぞ」って顔をしながら、カサカサとGの如く四足歩行で情けなく撤退を開始!

 

「待てえええええええ! このクソクマああああああ! 」

 

 スズハが鬼の形相で追従してくる!

 彼女もまた優勢に立ったら、途端に調子に乗ってくるユナと同様な女であった。

 

「三人なんかに勝てるわけないだろ! 逃げるわ! 」

 

 カサカサと逃げ回るユナ、背後からボウガンやミサイルや針弾が激しく飛び交う!

 

「ひゃああ! ムリムリムリー! 」

 

 背後から強襲する幾多の弾幕!

 ジグザグ移動で逃げられる代物では無い!

 

「落ちろクマああああ! 」

 

 再び鬼の形相のスズハと、仲間二人の射撃攻撃がユナを捕らえようと放たれる!

 正に万事休す......だが。

 

 

 「「ハイ・ファントム・クリスタルシールド!! 」」

 

 射撃に割り込む強大な霊力の盾!

 結晶化した霊力が飛び交う射撃を弾き、無効化する! 

 

 そこには、ユナの前に盾を構えるザジの姿があった。

 

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