第38話「別行動編、フォッカーの受難②」


 車内に争った形跡もなく、唐突に魂を抜かれたかのように全員が作業の持ち場に座ったまま倒れている。

 

 「ウウウウウ!ヴァンヴァン!」

 

 よしこが突然吠え出した!

 

 「何だ!どうした!よしこ!」

 

 「ワオン!(外に何か居ます!)」

 

 唸るよしこの言葉通り、車の外から巨大な気配が…!

 

 

 

 「おい…マジかよ…」

 

 そこでフォッカー達が見たものは…

 

 四足で移動する巨大霊体の狼!

 

 大きさは廃村にいた霊国の主よりも一周りも二周りも小さいが、それでも大型のトレーラーよりも大きい霊体である。

 

 「この巨大犬霊に喰われたのか!もしかして!」

 

 そう巨大な犬霊の口元には霊糸がまだ見えている!

 

 そして巨大な犬霊(以下巨犬霊)は前足を、フォッカー達の居る車に向けて振りかぶった!

 

 降り下ろされる狼爪!

 

 これも巨大霊体の布同様、無から作られた爪であり、ファントムスラッシュが常に帯びている。

 

 豪快な一撃!砂塵が巻き上がる!

 

 アスファルトに大きな爪痕が残る!

 

 

 だがフォッカー達や魂の抜かれた職員が乗っている車両は、そこにはなかった!

 

 

 

 そう移動していたのである!

 

 砂塵から車両が抜けて出てくる!

 そう無人(?)のまま走り出した!

 

 

 「うおおおお!よしこ!ハンドルは任せる!俺は霊力で車を動かせるが、今はエンジンで手一杯だ!」

 

 フォッカーは霊体の手を伸ばしてエンジンプラグ、内部電子機器に霊力を通して車両を発進させるている!

 

 「ワオンワオン!(もっとスピードを!追い付かれます!)」

 

 そう巨犬霊は以前の巨大霊体と違って走れるのだ!

 

 十分に車両に追い付ける早さで、後方に食らいついているのである!

 

 

 「おいおいおいマジかよ!」

 

 山間の下り、曲がり角の多い道路をよしこがドライビング!

 

 「ギャルルル!(重いです!この車!

 尻が荷物多すぎです)」

 

 電波送信車両は流石に重い様だ。

 

 だが下り坂なのが幸いしたのかスピードには困らない…が、重量が災いしてハンドル操作を怠ると横転しかねないのである!

 

 よしこは小まめな逆ハンドルで後輪の横滑りを軽減しつつ、コーナリングをこなす!

 

 「やべえ!タイヤの摩耗がやべえ!」

 

 コーナーを曲がる度にタイヤから吹き出す煙!

 

 「ギャオンギャオン!(ご主人!エンジンも私が操ります!後に移って後輪の摩耗をバリアで押さえて!)」

 

 「よしきた!」

 

 フォッカーはドローンで後方に移動、後輪のグリップ補助と摩耗の軽減をするためにバリアを張る!

 

 「めんどくせえ!車に丸ごと憑いてやる」

 


 

 

 「ハイ!ファントム!」

 

 

 「オーヴァードライブ!」

 

 フォッカーの霊力スキルが起動する!

 

 それはドッキングしているボディや車体に限定した仮マトリョーシカ式憑依スキルである。

 

 本来はよしこの犬ロボットにパワーアシストするスキルだが、今回は車両に仮憑依。

 

 防御力を上げてコントロールを格段に上げた。

 

 「走れええええええ!」

 

 

 スピードを上げるよしこ、巨犬霊との距離を大きく離す!

 

 「このまま街まで行って大丈夫か?……ってあれ?」

 

 

 逃げ切りそうな状況になって後方に気を配ると、巨犬霊の気配が急に遠のくのである。

 

 

 「もしかして俺たち逃げ切った?」

 

 

 フォッカーは気配が無くなったので、スキルを解くとドローンの状態で再び飛び回って周囲を観測する。

 

 

 「…居た!あんなところに!」

 

 

 少し離れた山道で、頭を後ろに向けた巨犬霊が見える。

 

 そして巨犬霊は踵を返すがごとく、反転し明後日の方向に向かって居るではないか!

 

 「離れるなら今のうちだ、でも…あの方向は!」

 

 そう巨犬霊がフォッカー達を諦めたのは変わらないが、諦めた後の向かった方角に心当たりがあった。

 

 「アイツ…廃村の方に向かってやがる!」

 

 そこでフォッカーがユナの″嫌な予感″が適中したのを確認する。

 

 「ワオンワオン(あのままでキャンパーが停泊していたら…)」

 

 そう…交戦も確実で更に満身創痍のキャンパー面子に、トドメが刺される可能性があったのだ!

 

 「怖えええ!、危機一髪が連続してて怖えええ!」

 

 「ワンワン(でも命を救える可能性、拾えましたね)」

 

 「ああ…魂抜かれたとは言え、まだ仮死状態一歩手前、つまりはまだ生きてる!」

 

 フォッカーは職員の状態を確認する。

 

 仮死状態とは言え余談は許されないが、眠ってる状態に近い。

 

 人里まで走って病院なりなんなり処置してもらえば、魂が戻った時に戻れる可能性があると考えたのである。

 

 「よしこ、行くぞ!助けが呼べそうな所に向かう!」

 

 こうしてフォッカー達は車両を走らせる。

 

 「なあ…よしこ?」

 

 「ワオン(何でしょう?)」

 

 フォッカーは巨犬霊が車両を攻撃したのが気になった。

 

 「やはりアイツ、抜け殻の肉体攻撃しようとしたんだよな…」

 

 「ワンワン(はい間違いないです)ワンワンワオンワオン(魂と肉体を切り離して、霊体を取り込もうとしたと思うのです)」

 

 フォッカーは巨大霊体と巨犬霊は同じ存在と考えた。

 

 「ヤバイ情報だな、″食い損ね″を殺す巨大霊体か…」

 

 もし巨犬霊のようなのが霊体を求めて街に入ったら、魂を抜いて肉体を殺す…

 

 そう考えると生きている人間を食らうのは手間がかかる、そう感じずに居られない。

 

 「まとめて殺す方法でも無いと無理だよな、ハハハ…」

 

 これは後に、

 

 メンバー全員が、戦慄する予感を孕んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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