御簾の向こうの月夜ノ姫様は、今日も通常営業です。
大祝 音羽
月夜に生まれた姫
月の輝く夜、宮中に元気な産声が聞こえてきた。
「こんなにも元気な産声をあげているとは、男子に違いない!」
と文字通り跳ねるように喜んでいる、天皇になったばかりの
「真昼、その男子は赤子か?」
と聞いた。真昼御前は朝陽天皇の顔をまじまじと見て、くすくすと笑いだした。朝陽天皇が首を傾げて、真昼は何で笑っているのだろう、と言いたげな顔をしているものだから、真昼御前は更に笑った。
「朝陽様…、それを言うなら『その赤子は男子か?』ですよ!男子か女子か分からなくても、赤子だと言うことは誰が見ても一目瞭然ですもの…。うふふ、流石は朝陽様ですね。あぁ、でも朝陽様の天は『神』の位ではなく、『天然の天』ですよ?そこだけは忘れてはいけませんね…」
朝陽天皇は、真昼御前に指摘をされてようやく言い違いをした事に気付いた。ぐうの音も出ないようで、真昼御前は更に笑った。朝陽天皇は、
「あー、もー…。変なこと言った!お願い、忘れて〜!」
と子どものように目を輝かせんばかりに懇願した。真昼御前は一瞬同情の目を向けそうになったが、すぐに表情を戻し、
「そうやって子犬のように可愛い顔をしても無駄ですよ。普段はあんなに天皇感の溢れる立ち振る舞いをしているというのに。こういう時に甘えるとは汚いことですよ…。わたくしもバカではありません。過去に引っかかったワナですもの。しかも、わたくし記憶力だけは良いので…。宮中の者にも話して差し上げようかしら…。『天然天皇伝説』って本でも書いたら売れそうね…、ふふふ」
と、肉食獣のようなにやり、とした笑みを浮かべてみせた。朝陽天皇は、顔を真っ青にして、「許してください、何でもしますから〜っ!」と頭を下げる勢いで拒否していた。
その時、ふと赤子がいたことを思い出した。真昼御前も、朝陽天皇も、赤子のことをすっかりと忘れていたらしく、「あっ…」と言いたげに目を真開いた。
長い長い沈黙が流れた。
「そういえば」
と真昼御前が切り出した。
「先程の男子か?という朝陽様の問いかけに答えるのを忘れておりました。なにせそれまでは赤子かどうかの判断がつかぬご様子でしたので…。(真昼御前は思い出してまた笑いそうになり、朝陽天皇は顔をしかめた)ちなみに、この子は女子ですよ」
朝陽天皇は、真昼御前のイジりをスルーして、頷いた。
「輝かしい満月の夜に生まれた女子か。かぐや姫だったりして…な」
「ふふふ、そうかもしれませんね。朝陽様が朝、わたくしが昼、この子は夜に生まれた。わたくしたちを巡り合わせたあの月…。
この子の名は、
「流石、歌の才能が発揮されている。結月…、良い名だ」
そうして、生まれた赤子は結月と名付けられ、大切に育てられていった。
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