ユミナ参上

 朝食は粥だった、肉がのっている。確かに耕太の言う通りリゾットと言えば少しはマシな食事に思える。だが、単調さは否めない。耕助は流石に飽きてきた。

「毎日おかゆって飽きません? 」

 耕助はヘルサに尋ねる。

「飽きはしませんよ、主食に飽きるということは中々ありません。そうでしょう」

 確かに米を食い飽きたなんて話は聞かない。

「もっとも、スミナがふんだんにあった頃はパンももっと作れたのですが。粥という調理法に飽きもしますが文句は言えません。肉が入っているだけ良いのです」

「貴族も冷害からは逃げられないのか」

 耕太が呟く。


「飯に文句はないんだが」

 倉田が切り出す。

「貴族だろう、もうちょっと贅沢に味に変化とか欲しくないのか。私のイメージでは貴族とはもっと傲慢なものだ。収穫にかかわらず飯を優先するのでは」

「いえ、それは低俗な金家がすること。我が家では品位を重んじます。金家は食事で病を抱える者も多いのです」

「高血圧が、貧乏貴族症候群って言うんでしたっけ」

 耕助は皿を平らげる。

「ええ、表向きの顔ばかり気にする人間です。よく言えば社交的、悪く言えば意地っ張りです。我が家は違う」


 どうもヘルサはアノン家に高いプライドを持っているようだ。当然か、この世で三つしか無い家柄の育ちだ。そりゃ矜持の一つや二つ持っているだろう。


「ユミナさんなんて豪華な食事だったけど、あの家もやっぱりそういうことなの」

 お茶のお代わりを女中に次いで貰っている耕太が尋ねる。

「わかりません、客人がいたからあのような食事を出したのかも知れません。毎日あの量は食べられないでしょう。いえ、でも農奴に食事を配ると言ってましたね、案外残すことを前提に大量の食事を作っているのかも知れないです」

「その貧乏貴族とはちょっと違うニュアンスが出てくるな。社交目的ではない、むしろ領民に施しを行っている。農民からすれば良い領主様という訳か」

 倉田が口を拭き、煙草を取り出す。女中が灰皿を差し出した。

「悪い奴じゃないってことか、確かに良い感じの人だったけど」


「頼もう! 頼もう! 我はシルタ家が騎士団長イノムデなり! ユミナ様のご到着です」

 玄関の方から男の大声が響く。

「噂をすれば。もう到着ですか、昨日出立して今着くということは夜を徹した強行軍ですね」

 ヘルサは茶のお代わりを断る。

「あなたはユミナのもてなしを、私の事は侍従のジュセリがやります」

 ヘルサは女中に命ずる。

「畏まりました」

 女中は腰を折り、部屋を辞する。


「これくらいの優先順位自分で決められればいいのですが。困ったメイドです」

 ヘルサはジュセリに茶を注がせる。

「鉄家の方が偉いんだし、待たせてもいいんじゃないの」

 耕太が尋ねる。

「来客をむげにもてなすなどもっての外ですよ」

 ヘルサは緑茶の出がらしのような茶をすする。耕助に言わせればあまり美味しいお茶ではない。だが、これしか水分がない。蒸留水はまだ送られてきていない、一度沸騰させた茶ならまだ飲めるだろうと耕助は判断している。


「それで、食堂はこっちか。それともこっちか」

 ユミナの声がし、扉が開く。もじゃもじゃ髭のユミナが入室する。

「ヘルサ様、鈴石! いや、呼び捨てはマズいな。 鈴石閣下! 健勝か! 賊に襲われたと聞いていたが」

 ユミナは耕助を引っ張り立たせハグをする、バシバシと背中を叩きながら。

「生きていたか、そりゃ良かった。心配で中々寝付けなかった」

 ユミナの目には隈がある、寝付けなかったのは本当らしい。

「ご心配をおかけしました、とりあえず座ってお話しましょうか」

「そうだな」

 女中が椅子をひく、ユミナはそれに腰掛けた。


「で、農業大臣にも就任したそうだな。おめでとう」

「いや、参っちゃいますよ。幾ら農協職員だろうと政策なんて練れません。頼みの綱のアルドさんは王様の対応でてんてこ舞いでしょう、ユミナさんのお力添えが不可欠です」

 耕助はユミナに頭を下げる。

「いやこちらこそ今後改めてよろしく頼む。ジャガイモは知らんからな」


「そういえばユミナさん、ジャガイモ食べたことなかったでしたっけ」

「ああ、まだ食べておらんよ」

「じゃあ、昼食はジャガイモにしてもらいましょう。現物を食べないことには普及もままならないでしょうから。ヘルサさん、できますか」

「もちろん。用意させます」


 ヘルサは懐から紙と筆を取り出し書をしたためる。

「メニューはゆで芋でよろしいですか」

「ええ、バターもお願いします」

「承りました。ゆで芋、バター付き」

(さて、昼飯まで時間がある。ユミナと語るべき事は山積している、どれからとりかかろうか)

 耕助は茶をすすり、思考をリフレッシュさせ事に臨む態勢をつくる。


(昼飯までまだ時間はある、ユミナと農政について語ろう。そうだ、茶でも入れて貰おう)

「お茶、ポットでお代わりください。ここユミナさんと話すのに使っていいですよね」

「構いません、どうぞ」

「ではお言葉に甘えて。ユミナさん、自由農民、農民への給食、前線に居る魔導師への給食、あとは肥料。問題は尽きません。この世界を知らないので、政治の面でのサポートが必要です。是非お願いしたい」

「構わんよ、望む所だ」

 ユミナは前のめりに、気合いをいれたようだ。

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