31帖 ツインテール

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



 天坛公园ティェンタンゴンユェン(天壇公園)へは汽车チーチェァ(バス)で行くことに。

 汽车站チーチェァヂァン(バス停)まで行く途中、飲食店以外にもいろいろな店を見つけた。


 书店シュディェン(本屋)、纪念品商店ジーニィェンピンシャンディェン(お土産屋さん)、手表店ショウビィャォディェン(時計屋)、工艺美术店ゴンイーメイシュディェン(工芸美術店)、中药店ヂョンイャォディェン(漢方薬店)、百货公司バイフォゴンスー(百貨店)、时装店シーヂュゥァンディェン(ブティック)、剧场ジュチャン(劇場)などなど。


 杂货店ザーフォディェン(雑貨屋)の前を通りかかった。ミョンファは店の中をチラチラと覗いてて、中に入ってみたそうやったんで立ち止まる。


「このお店、入ってみる?」

「いいの」

「ええよ」

「そしたらちょっとだけね」


 杂货店に寄り道。

 店に入ると、ミョンファは目を輝かせ小物類を見て嬉々としてはしゃいでる。やっぱり女の子やねんなぁあと思た。


 そうや。昼飯と入場料のお礼に何かプレゼントしよ。


 そう思て僕も物色ぶっしょくし始める。


 何がええんやろ? ミョンファはどういうのんが好みなんやろ?


 どうしたもんかと困り、小物を手に取って見てるミョンファを後ろから眺めてみた。

 ミョンファは肩下まで伸びてる長い髪を黒い紐でひとまとめにくくってる。それはそれで可愛いんやけど、もう少し工夫したらもっとようなると思えてきた。


 なるほど。髪をきれいに止めるもんがあったらええんや。


 という結論に至る。

 僕は他の女子に混じってあっちこっち探してみる。すると、「发圈ファジュェン」というヘアリングのような髪飾りを見つけた。その中から可愛いのを選んで、ミョンファに見つからん様にレジでお金を払う。

 店の外で待つこと10分。ミョンファが出てきた。


「ごめんね。遅くなりました」

「なんかええもんあった?」

「そうやねー」

「何買うたん」

「いいえ、買いませんでした」


 それなら、丁度ええわと思て、


「ミョンファ。これもらってくれる。プレゼント」


 と言うて紙袋を渡した。


「ええ、いいんですか……。おおきに」


 紙袋を受け取って、中から发圈を取り出す。


「わーかわいい。この小さなリボンがめっちゃ可愛いです。おおきに! つけてみてもいい?」

「おお、ええなぁ。つけてみて」

「うーん、シィェンタイはどんな发型ファシン(髪型)がいい?」

「そうやなぁ……」


 僕はミョンファの頭から帽子を取って、顔をじっと見る。ミョンファは照れて下を向いてしもたんで後ろに回ってみる。


 ポニーテールもええけど、ミョンファにはツインテールが似合いそうや。


「ミョンファ。髪の毛を、こう二つに分けてくくってみたら」

「え、双尾巴シュゥァンウェイバー(ツインテール)にしたらいいのね。それはしたことないですねー。でもやってみます」


 周りを見渡して、隣の时装店に入って行く。

 僕もあとについて行ったんやけど、ミョンファはそのまま店の奥に行ってしもた。そやし僕は一人でミョンファにはどんな服が似合うんやろかと考えながら店内を眺めてた。


 时装店は、流行りの服を売っているらしい。日本で言うたらブティックの様な感じの店や。そやけど日本と比べたらデザインが少し古く思える。まぁ女子のセンスは全然分からんけどね。付け加えておくけど、男子の流行りも分かりません。


 店内をウロウロしてたら、ヒラヒラが付いてる白い连衣裙リィェンイーチュン(ワンピース)に目が止まる。


 これやったらミョンファに似合いそう!


 ちなみに、と思て値段を見てみたら197元やった。


 高っ!


 トルファンまで硬臥インウォ列车リィェチゥー(二等寝台列車)に乗って行けるやんと思てしもた。


「シィェンタイ……」


 と声がする。ミョンファはうつむき加減で奥のドレッシングルームから出てきた。


「こ、こんな、感じでどうですか……」


 長い髪を耳の後ろでくくり、両方の肩から少し前に垂らしててて、さっきと全然雰囲気が違う。


 めっちゃ似合てる。完璧や!


 なんでかドキドキしてしもた。


「ミ、ミョンファ。めっちゃ似合てるよ。さっきよりもっと可愛くなったで」


 と言うたら、いつも通りプッと膨れてしまう。


「シィェンタイが、買ってくれたから……いいに決まってる」

「ミョンファやったら何でも似合うんやて。うん。よし、それで公园に行こ!」


 ミョンファは黙ってうなづく。

 店の外へ出ると風が吹いてきて、ミョンファの前髪がフワフワと風に揺れてる。

 僕は更にドキドキしてしもた。



 つづく


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