chapter21 「売上債権」回収不能時の処理方法
「…」
「美琴、どうした?浮かない顔して…」
ある日の部活終了後…
「煉先輩…実は、仲良くしていた友だちが、今日転校してしまって…」
「入学してまだ半年なのに、随分早い転校なんだな…」
「その友だちは「家庭の事情」って言ってましたけど…そういえば、その子に貸していた小説、返してもらうの忘れてました…」
「友だちの新しい連絡先とか知ってるのか?」
「はい。LINEを交換してますから、連絡を取ることはできるんですけど…」
「LINEとかケータイとかがない時代だったら、簿記的に言ったら「貸倒損失」になるところだったな…」
「あれっ!?「貸倒損失」になる前に「貸倒引当金」を充当するんじゃなかったでしたっけ?」
「そこが、検定でも焦点になることがあるから注意が必要な部分なんだ。実は、貸倒引当金は「前期に発生した売上債権」にしか充当できないんだ」
「ウリアゲサイケン?」
「そうか、まだ「売上債権」については習っていないはずだよな…「売上債権」っていうのは、「売上」を計上する際に発生する債権のことを言うんだ」
「債権っていうのは「お金をもらうことのできる権利」のことですよね」
「そうだな。「売上」を計上する際に発生する、お金をもらうことのできる権利だから…」
「「売掛金」と「受取手形」のことですね!」
「その通り。検定の問題で「売上債権」に対して2%の貸倒を見積もる…なんて書いてあったら、「売掛金」と「受取手形」の両方を対象に貸倒引当金を設定する、という訳だ」
「なるほど!売上債権が「受取手形」と「売掛金」のことで、これに通常は貸倒引当金を設定するという意味は分かりました。で、なぜ貸倒引当金は「前期」に発生した売上債権にしか使用しちゃいけないんですか?」
「逆に美琴に質問しよう。「貸倒引当金」を設定している対象になっているのは、いつの時点の売上債権のことでしょうか?」
「「貸倒引当金」は、通常決算で設定されるものですよね…ということは、決算を行う「期末」時点の売上債権が対象ですよね」
「その通り。つまり、貸倒引当金の対象になっているのは、決算時の「売掛金」と「受取手形」ということになる」
「故に「前期」に発生した売上債権が回収不能になった時には「貸倒引当金」を充当してもOKだけど、「今期」に発生した売上債権は「貸倒引当金」の対象になっていないから充当はできない、という訳だ」
「なるほど!前期に発生した売上債権が回収不能になった時は…
(借方(左側))貸倒引当金
貸倒損失
/
(貸方(右側))売掛金
みたいな仕訳になって、今期に発生した売上債権だった場合は
(借方(左側))貸倒損失
/
(貸方(右側))売掛金
っていう仕訳にしかならない、ということですね」
「そう言えば、この前ニュースで倒産した会社の破産処理が完了して、残された資産の分配が行われたって報道されていましたけど、倒産した会社の「売掛金」や「受取手形」が回収できることってあるんでしょうか?」
「それも、実は検定の問題で出題されることがあるんだ」
「えっ!?そうなんですか?」
「「貸倒れとして処理していた売掛金を現金で回収した」みたいな感じで出題されることがある。俺が3級を受検した時の仕訳の問題でちょうど出題されたっけ…」
「その場合、現金で回収した訳だから、左側は現金になりますよね…で、右側は「売掛金」になるはずだけど「貸倒れとして処理した」ってあるから、もう売掛金は減らしている訳で…もしかして、回収に成功したわけだから、費用計上した「貸倒損失」を右に記入して減らす…?」
「「貸倒損失」を減らすのはいい案かも知れないが、もし貸倒を処理したのが「前期」だったらどうする?」
「「前期」に処理していたら、今期は貸倒損失はないわけで、右に書いても減らせませんよね…」
「そういうこと。こんな時は「費用にした債権を回収して儲かりました」って勘定科目、即ち「償却債権取立益」という勘定科目を使うんだ」
「償却債権取立益…「償却」は「減価償却」でも出てきましたよね。減価償却も、固定資産の価値を減らして費用にしたってことでしたよね。「債権」は「売上債権」のことで「取り立てて益が出ました」…なるほど!勘定科目的には長い名前ですけど、やっぱり分解して考えれば、理解できます!」
「貸倒れとして処理した売掛金や受取手形が回収できた時には
(借方(左側))現金
/
(貸方(右側))償却債権取立益
という仕訳になる訳だ!」
「売掛金や受取手形は、費用化した時に減らしているから、それが回収できた時の仕訳には全く出てこないのがミソですね!」
「そうだな!嶋尻商店が貸倒損失や償却債権取立益を計上しなきゃいけなくなる前に、その友だちに連絡して小説を返してもらうといい」
「はいっ!そうします!!その小説、私と同じ境遇のヒロインが出て来るので、私としては手元に絶対置いておきたい小説なんです…」
「そうなのか・・・ちなみに、その友だちの転校先は?」
「都内の23区内なので、今度の日曜日にでも買い物に行こうって誘って、その時に返してもらおうと思います!」
「(23区内なら、電車で1時間足らずじゃないか…心配することなかったかな…)」
「先輩!何か?」
「いっ、いや。何でもない」
「???」
「…」
…
chapter 22 に続く
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