chapter19 「当座借越」って何!?
「失礼しま~す」
「どうぞ~今、ちょっと手が離せないから、その辺に座って待ってて!」
この先生は
戸山先生や尾沢先生と同じ商業の先生ながら、美術部の顧問としても活動していて、年に1回、美術の先生との合作を個展に出すほどの才色兼備な先生だ。
「…お待たせ、嶋尻さん。今日は何の御用かしら?」
「戸山先生から、この封筒を預かってきました!」
「…また戸山先生に借越ができちゃったわね…」
「…先生、封筒の中身って何なんですか?「借越」っておっしゃいましたけど…」
「あっ、これ!?これはね、来月の簿記検定対策の問題なの!今回の検定対策の問題作成は私が担当だったんだけど、部活の作品制作が忙しくて、作成を戸山先生にお願いしたから、「借越」ができたという訳!」
「借越って、簿記の「当座預金」で出てくる、あの「借越」と同じですよね…」
「そう。「当座借越」のことよ。この言葉を知っているということは、戸山先生からもう習ったのね」
「はい。当座預金残高以上の金額の小切手を振り出した時に、銀行が一時的に貸してくれる部分のことが「当座借越」だと習いました!」
「例えば、当座預金残高が1000円しかない時に、1500円の小切手を振り出した場合の、500円の部分のことね」
「はい。でも郷中先生、もしこれで当座借越が使えなかった場合はどうなるんですか?」
「その小切手は「不渡り」になってしまうわね…」
「「ふわたり」?」
「その小切手を持った人が銀行に言って換金しようとした時、当然当座預金からその小切手の額面を引き落とすことができないから、小切手の代金が支払われなくなる。この状態を「不渡り」と言うのよ。この状態は、小切手だけでなく、約束手形や為替手形でも起こりうるわね」
「「不渡り」を出すと、会社はどうなるんですか?」
「「手形交換所規則」に基づいた不渡り処分を受け、不渡りを出したことが全ての金融機関に通達されるわ。この時点では、小切手や手形の振出に影響は出ないけど、金融機関や取引先からの信用はがた落ちになるわね」
「「この時点では…」ということは…」
「そう。1回目の不渡りから6か月以内にもう1度不渡りを出すと「銀行取引停止」処分を受けることになって、当座預金の取引が停止され、銀行から融資を受けることもできなくなるの。上場企業の場合、証券取引所が定める上場廃止の条件に触れることになり、上場廃止となってしまうわ」
「不渡りって、会社にとってはとっても恐ろしいものなんですね…」
「その通り。だから、実際は当座預金から引き落とされていないにも関わらず「小切手を振り出して支払った」の時には当座預金を減少させるのよ」
「そして、万が一の時に恐ろしい「不渡り」にならないための制度が「当座借越」という訳ですね」
「そういうこと。ただ「当座借越契約」で補ってもらえる金額には限りがあるし、なによりこの契約を締結するためには担保を用意しなければならないから、実際に締結するには難しいでしょうね…」
「なるほど!ちなみに、戸山先生に今回「借越」を作ることで、先生は何か担保を差し出しているんですか?」
「そうね…「担保」って程でもないんだろうけど、今度一緒に食事に行くことになっているわ…って嶋尻さん!私に何を言わせているの!!」
「ってことは、デートに行くわけですね!!」
「「デート」ではなく、ただ「食事」に行くだけです!大人なんだから、異性と食事に行っただけで「デート」にはならないわよ…」
「そういうことにしておきますね!」
「嶋尻さん!変な噂がたっても困るから、このことは誰にも言わないでね!」
「分かってますよ!先生!!先生には、先輩とのこともいろいろ相談に乗ってもらってますし♪」
「ヨロシクね」
「(やっぱり自分で持ってきた方が良かったかな…)」
…
chapter20 に続く
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