chapter11 「内金・手付金」って何!?

「ねぇお姉!お家に帰ったら必ず返すから、100円貸してよ~」


「だ~め。私も今日は手持ちがなくて、美琴に貸したらお昼買えなくなっちゃうから。どうしてもって言うなら「倍返し」ね」


「お姉の意地悪!」


「どうしたんだ?何か「倍返し」なんて言葉が聞こえてきた気がするんだが…」


「部長!」


「煉先輩!財布をお家に置いてきちゃったもので、お姉にお金を借りようと…」


「そうか。それで、「倍返し」なら貸すってことだな、真琴は」


「私も今日は手持ちが少ないもので、美琴に貸せないんですよ…」


「なるほどな…そう言えば、今日俺が受けた3年の「経済活動と法」っていう授業で「倍返し」って言葉が出てきたな…」


「3年生の授業じゃ「法律」のことも勉強するんですね…」


「部長。「倍返し」はどういった内容で出てきたんですか?」


「真琴たちは、男が18才、女が16才にならないと結婚できない根拠って、何だと思う?」


「う~ん、女性の方が男性に比べて精神年齢が高いから、かな…」


「そういう意味じゃなかったんだが…」


「えっと、何とかって法律でそのように決まっていたからじゃなかったでしたっけ?」


「正解!『民法』って法律の第731条に「男は18歳に、女は16歳にならなければ、婚姻をすることができない」とあるから、その年齢にならなければ結婚はできないんだ。」


「(そうか…法律上は、もう私と先輩は結婚できたりするんだぁ…)」


「美琴!どうした!?」


「いっ、いえ。なんでもありません!!」


「…話を戻すぞ。で、その民法って法律の第557条に「手付」って項目があって「買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、し、して、契約の解除をすることができる」って条文があるんだ」


「これは、「手付金」が取り交わされた後に契約を解除する場合、手付金を支払った買主側が解除したければ、、手付金を受け取った売主側が解除したければ、って意味なんだ」


「手付金って、簿記では払った時には「前払金」、受取った時には「前受金」にする、あれですよね?実は「内金」も同じように簿記では処理するって習って「何が違うのかなぁ」って思ってました!」


「手付金は「民法」って法律で守られた正式な商取引の制度だから、そういう形で取引をした方が、。一方で「内金」はただの「予約金」のことだから、法律に縛りがない。もし契約を解除したければ、内金を受け取った側は返金すれば済む話になってしまう。故に、大きな商談の際は、商品代金の一部を先に授受する際は「手付金」として扱うことの多いそうだ」


「なるほどね。ちなみに先輩!私が今勉強している3級では、手付金も内金も「前払金」「前受金」で処理してますけど、級が進んでもこれは同じ処理なんですか?」


「いや、2級以上になってくると「支払手付金」「受取手付金」という勘定科目で処理する場合があるな。この場合、内金のみ「前払金」「前受金」で処理することになる。ただの「内金」なのか「手付金」なのかを明確に区別するための知恵とも言えるな」


「確かに、2年生になって「支払手付金」「受取手付金」を使うようにって習いました!名前が変わっただけじゃなかったんですね!」


「余談だが、この「手付金」という制度を利用して「結婚詐欺」をする輩がいるそうだ。付き合っているフリをしている相手と不動産屋に行き、2人で住むためのマンションや一戸建てを購入するための手付金を相手に支払わせる」


「もちろん、不動産屋もグルになっていて、高額な手付金を支払わせた後で相手と別れる。別れた相手は、2人で住む予定だった家が必要なくなったから、不動産屋に契約の解除を申込みに行く」


「でも、支払ったお金は「手付金」で、だから…」


。それでいて、不動産屋はその手付金を何もしないで丸儲け…」


「その通り!」


「ひどい話です!!」


「全くです!!でも簿記を勉強して手付金の制度のことが分かっていれば…」


「そういう詐欺被害に遭う前に気付くことができる、という訳だな!」


「(まぁ、私が引っ掛かることはないな…だって、私には煉先輩が…)」


「ん!?美琴、何か言ったか?」


「いっ、いえ。なんでもありません!」


「ところで、美琴。今日昼が無いんだろう?俺が購買で買ってきたパンでよければ食べてくれ!」


「えっ、いいんですか?」


「買ったんだが、別の物を食べて腹がいっぱいになったから、やるよ!」


「真琴に「倍返し」も嫌だろうしな!」


「もぅ、部長さん、意地悪言わないで下さい!」


「やったぁ~煉先輩!ありがとうございます!!」


 chapter12 に続く

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