おぼろげさんとみかん猫
白田 まろん
プロローグ
プロローグ
「やっぱりおぼろげさんが書く小説って面白いな」
いつものネット小説のサイトで、私は授業中だったにも関わらずお気に入りのおぼろげさんの作品を読んで独りごちた。おぼろげさんというのはもちろんペンネームだ。プロフィールから二十代の男性ってことだけは分かるけど、それ以外は全く知らない人である。もちろんそのプロフィールだって本当のことが書いてあるとは限らないから、実際は全然知らない人ってことになるけど。
おぼろげさんはプロの小説家さんではない。趣味で自分の書いた小説をネットにアップしているだけ。そういう人って今は何万人とか何十万人とかいるらしい。でも私は彼の作品が一番大好き。短編は最後にクスッと笑わせてくれたり、ほろっとさせてくれたり。長編だとそれらが全部詰まっている上に、あっと驚かされる伏線が敷かれていたりする。そしていつも続きが気になる絶妙なところで次回更新待ちとなるのだ。きっとおぼろげさんの頭は三つ以上あるに違いない。
「おいアザクラ、何が面白いって?」
そんなことを考えていたら、急に頭の上からしわがれた声が聞こえた。どうやら私の
「すみません、何でもありません」
うつむいて小声で応える私を見て、クラスメイトたちの
「何でもないはないだろう。俺の授業より面白いことがあるなら出て行ってくれても構わないぞ」
「いえ、すみません」
「よし、アザクラ今日は欠席な」
「そんな……」
言い放って小仏先生は教壇に戻って行った。手の中にあったスマホに気づかれたはずなのに、取り上げられなかったのは不幸中の幸いだ。それでも実際に欠席にされるようなことはないだろうけど、目の
中学三年生にとっていわゆる内申書に
そしてこの担任はそれを盾に平気で私を脅かしてくる。なぜそうなったのかは覚えがあるが、私は何も悪いことはしていない。だからこの仕打ちは理不尽としか言えないのだが、それでも内申書を持ち出されたら言葉を返すことすら出来なくなってしまうというわけだ。
ちなみに私の名前はアザクラではない。それからクラスメイトの反応の通り、私はクラスでは浮いた存在、簡単に言えばハブられているということ。正直なところ学校になんか来たくはない。でもこの一年を乗り切ればこんな生活ともオサラバだと思って我慢してる。時には悔しくて悲しくて涙が止まらないこともあるけど、そんな夜はおぼろげさんの小説を読んで元気をもらえばいいだけだ。
でも、一学期の終わりに渡された通知表を見て私は
その夜私は悔しくて悔しくて、思わずおぼろげさんに個人メッセージを送ってしまった。
『死にたい』
『聞こうか』
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