冬と春の間で君を待つ
あせろら
プロローグ
何度目の冬だろう
「お先に失礼します」
いつものように同僚のみんなと上司にそう言って退社する。
「うわ、雪だ」
会社の扉を開けてすぐにその存在に気付いた私は、空から降るそれをそっと手の上に乗せてみる。
だけど手に乗せた雪は私の体温で瞬く間に溶けて、水へと変わってしまう。
傘、持ってないな…
駅まで傘なしで歩くしかないかぁ。
覚悟を決めてうっすらと積もった雪の上を、一歩踏み出す。
雪を踏みしめた感触は何かが萎縮していく様で、あまり好きではない。
駅は割と近くにあって、歩いていけば約15分。
雪が降る日は慎重に歩かなければ滑って恥ずかしい思いをするから、大目に見積もっても20分と言ったところだろう。
「はは……何やってんだろ。」
歩いてるだけなのに、
雪が降ってるだけなのに、
私の頬をゆっくり流れ落ちる涙。
立ち止まって拭ってみるけど、何度拭っても溢れ続ける。
まるで拭いても拭いても曇り続けるお風呂の鏡のように、それは無駄な事なんだとわかっているんだ。
初雪が降ると毎年こうだ。
あれはもう何年も昔の話。
いつまで引きずっているんだ。
そう思い直して止めていた足を動かすけど、
やっぱり涙は止まらなくて。
とめどなく目から溢れて頬を伝って行く。
雪はとっても綺麗だ。
街のイルミネーションの光を反射して、それ自体も光を放っているかのように輝いて、街の風景にとけ込んでいく。
だけどそんな綺麗な雪が、私は大嫌いだ。
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