Day6  📖【若紫】現代ならエライこと……

 こんにちは。さて、『源氏』トリップに出かけましょうね。平安トリビアが3日続きましたが、今日は本家『源氏物語』第五帖若紫の【超訳】です。


 前回ご案内した第一帖桐壺(Day2 源ちゃん登場!)のあと、光源氏は憧れの藤壺の宮さまへの恋心を抱きながらも何人かの他の女性(空蝉うつせみ、夕顔、六条御息所ろくじょうのみやすどころなど)とも付き合っています。藤壺の宮さまは光源氏のお父さん(桐壺帝)のお妃さまなので(源氏のお母さんではありません)、禁じられた恋で誰にも言えない想いに苦しんでいるところから五帖はスタート、です。


 ✈︎✈︎✈︎

【超訳】源氏物語 episode5 過ちと略奪     若紫


 源氏 18歳、藤壺の宮 23歳、葵の上 22歳

 紫の君 10歳、明石の君 9歳



 ―― 明石の姫君の話 ――

 春になって、18歳になっていた源氏は体調を崩して北山(現・京都市北区)というところにいる僧侶を訪ねて加持祈祷(お祓い)をしてもらうの。

 北山の景色は素晴らしく源氏の気分も晴れてきたみたい。そこで家来の源良清みなもとのよしきよがある男の話を始めるの。播磨(現・兵庫県)の明石の浦に住む明石入道あかしのにゅうどうという人で、都での出世を捨てて、明石に豪邸を建てて悠々自適に暮らしているらしいのね。それで娘がひとりいるんだけれど、その入道は最上の男性とめぐり逢えない場合は海に身を投げて死んでしまいなさいと話しているというの。

「龍宮城の妃にでもするんじゃないの?」

 源氏も少し茶化しながら話を聞いていたみたい。一緒にいた家来たちも源氏がその娘に興味を持ったなって気づいたみたいね。


 ―― 紫の上との出逢い ――

 僧侶のお寺から外を眺めると人の姿が見えたの。夕方惟光これみつだけを連れてそのあたりに行ってみると、可愛らしい少女が泣いているのを慰める尼の姿が見えたの。幼い少女は他の子供達とは違って、将来はどんな美人になるだろうと思わせる美しさがあったのね。どことなく憧れの藤壺の宮さまに似ている気がして、源氏は急激に好意をもってしまうのね。

 

 夜になって僧侶と対面して、夕方見かけたふたりのことを尋ねてみたの。すると尼は僧侶の妹で、少女は尼の孫娘で兵部卿宮ひょうぶのきょうのみやの娘ということだったの。兵部卿宮というのがあの藤壺の宮さまのお兄さんだったのよ。だから藤壺の宮さまとこの少女は叔母と姪という関係で血がつながっていたの。だからあんなに似ていたんだとまたもや源氏はときめいてしまうのね。一緒に暮らして自分の理想通りに育ててみたいなぁなんて思っちゃうの。そこで僧侶に少女を預かりたいと言うんだけれど、本気にはしてもらえないのよね。

 少女の祖母の尼にも結婚を前提に手元で育てたいと伝えたんだけど、

「うちの孫はまだ年頃ではない少女でお相手は務まりませんのよ」

 とやんわり源氏の申し出を断ったの。


 そろそろ病気も治ったんじゃねぇの? と友人の頭中将とうのちゅうじょう達が迎えにやってきて、花見の宴を開いたの。このとき少女も源氏の姿をちらっと見かけたの。こんなに美しい男の人がいるの? と幼心にも思ったみたい。

 女房が「あの方のお子様になりますか?」と聞くといいわって頷くの。それから少女はお人形遊びのときも絵を描くときも源氏の君を登場させたんですって。


 都に戻った源氏は宮中で帝に会い、病気で休んでいたことを謝り、それから葵の上のいる左大臣家にも挨拶に行くの。でも相変わらず葵の上は冷たくて憎まれ口しか聞いてくれなくて、ひとりで横になりながら思ったのはあの少女のことだったのよね。憧れの人と血のつながりのある可愛らしい姫をなんとかして手に入れられないかって考えていたのよね。


 ―― 藤壺の宮との過ち ――

 相変わらず正室の葵の上とは結婚して何年も経つのに打ち解けてはいないの。お高くとまってすましたままの妻に源氏もため息なのね。


 そんな頃、藤壺の宮さまが一時ご実家に戻っていたの。今でいう帰省みたいなものかしらね。宮中からご実家にお宿下がりされていたの。源氏は今がチャンスとばかりに藤壺の宮さまのお付きの女房の王命婦おうのみょうぶに協力してもらって、藤壺の宮さまのところに忍び込んだの。父である帝を裏切って。命をかけて。

 藤壺の宮さまも過去に一回だけ犯してしまったその罪をもう一度は重ねられませんと源氏を拒むのだけれど、ふたりは結ばれてしまうのよ。犯した罪の重さにおののく宮さまだけれど、柔らかな魅力があって最高の女性だ、欠点がひとつもないから死ぬほど惹かれるんだ、と源氏はひとり盛り上がっちゃってるのよね。永遠に夜が続いてほしいなんて源氏は願うけれど、残念ながら別れの朝はやってくるわね。

 一晩過ごしたあとで源氏は自宅の二条院に戻って2,3日引きこもってしまうの。宮さまに手紙を出しても、「ご覧になりませんでした」との王命婦からの返事しかないのね。源氏も想いは叶ったけれど、これからのことを思うと辛い気持ちの方が強かったでしょうね。お互いに好きでいても、現帝の女御(きさき)と帝の息子。とんでもない罪の関係だものね。いくら複数の女性とつきあってもいいこの時代でも許されない関係だものね。


 そんな中、藤壺の宮さまが妊娠してしまうの。あれ? 時期的に今頃? なんて宮中でも帝も思われたのだけれど、物の怪もののけ(人にとりつく霊)のせいでしょうなんて言ってごまかしたの。もちろん、源氏も協力した王命婦も生きた心地もしないで、恐ろしくなってしまうのね。そして藤壺の宮さまはいつまでも実家に滞在しているわけにもいかず、恐ろしいほどの罪の意識の中、宮中に戻られたの。


 源氏は以前変わった夢を見たときに、占者を呼んで夢解きをしてもらったことを思い出すの。その占いでは将来帝になる子が産まれるって言われたの。源氏は元皇子でも今は臣下なので、臣下の子どもが帝になるなんてことは有り得ないのに、占いにはそう出たのね。

 でもこうして藤壺の宮さまが妊娠なさったことを知ると、それってあの夢占いがあたったんじゃないかって源氏は思うの。藤壺の宮さまが産む子どもなら帝になる可能性はあるものね。あくまでも桐壺帝の子どもとしてなんだけどね。

 源氏は自分の子を妊娠している藤壺の宮さまに逢いたいと王命婦に何度も頼むんだけれど、王命婦も藤壺の宮さまも断固としてとりあってくれなかったの。


 宮中に戻ると、以前のように帝はしょっちゅう藤壺にお通いになって、そろそろ体調もいいようならと、音楽の遊びを藤壺でしようと源氏達若い人たちを呼んで琴や笛を演奏させたの。もちろん源氏は何事もないように振舞ったけれど、時々見せる切ないカンジを藤壺の宮さまは気づかれたみたいで、やっぱりお互いツライ想いをしたのよね。決して誰にも言えない気持ちだけにね。

 


 ―― 紫の君を二条院へ ――

 藤壺の宮さまとの件で、春に出逢った少女のことを忘れていた源氏なんだけど、秋になって祖母の尼が亡くなったと聞いたの。

 少女の住んでいるお屋敷に行って、女房達から源氏は事情を聞いたの。どうやら少女の父親の兵部卿宮が引き取りに来るらしいのだけれど、兵部卿宮には正室がいて、兵部卿宮のお屋敷で正室の子どもではないこの少女がいじめられはしないかと女房達は心配していたみたい。


 少女の家はとても荒れていて、ついている女房も少なく、とても心細かったみたい。源氏はとても可哀想にと同情するの。

「男の方がいらしたって、おとうさまがいらしたの?」

 少女が部屋に入ってきたの。でも少女はお父さんじゃない初対面の光源氏に驚いちゃうの。

「引き取りたいとおっしゃってくださる姫はこんなに子供なんですよ」

 と少納言という女房が源氏に話すの。それでも可愛らしい姫を見た源氏は盛り上がってしまうのね。そして今日はもう天気も悪いし、私がついているから屋敷の戸締りを家来たちに命令して、姫や女房たちと一緒に過ごしたの。

「おもしろい絵とかお人形もたくさんあるから、ウチにおいで」

 と優しく話かけているうちに、姫さまも安心したみたい。女房達も心細い夜に源氏がついていてくれたことに感謝して、

「これで姫さまが源氏の君に釣りあう年齢ならどんなによかったかしらね」

 と噂しあったみたい。


 数日後、惟光をそのお屋敷に行かせてみると慌ただしい様子で、明日兵部卿宮が迎えにくるらしく、準備に追われていたんですって。それを聞いた源氏は夜も明けきらないうちに兵部卿宮より先に屋敷に向かい、まだ寝ていた少女を抱きかかえて二条院へ連れてきてしまったの。

 最初は寂しさと恐ろしさで泣いていた少女だったんだけど、源氏が優しく話したり遊んだりしてくれるうちに打ち解けていったみたいね。

 一方、兵部卿宮は少女の失踪に落ち込んだみたい。



 ~ 手に摘みて いつしかも見む むらさきの 根にかよひける 野辺の若草 ~

(俺のそばで見ていたいんだ。憧れの人とよく似た可愛いキミをね)


 こんな歌を源氏は詠んだの。そうして、これからこの少女を紫の君と呼ぶことにして二条院で一緒に暮らすことにしたの。このとき源氏が18歳、紫の君が10歳。



 ~ 手に摘みて いつしかも見む むらさきの 根にかよひける 野辺の若草 ~

 源氏宰相中将が紫の君へと詠んだ歌



 第五帖 若紫


 ✈︎✈︎✈︎


 そう、この紫の君がのちの紫の上です。いろいろな見方はあるけれど、源氏がもっとも愛した女性かな、と思います。幼い頃から理想の女性に育て、のちに結婚するのです。

 大人になってからの8歳差は珍しくないと思いますが、18歳と10歳。高3男子が小4女子を自宅に連れ込む、なんて書くと大事件ですね。安易に現代と比べたらいけないかしら?

 ですが、前回までにお話した平安時代の一般的な恋や結婚と比べても、アンビリバボーさが際立っていますよね。


 藤壺の宮さまとの禁断の恋と紫の君の略奪。五帖の若紫はなにやら犯罪めいていますよね。今ならワイドショーが大騒ぎ?


 明日は『源氏物語』第六帖末摘花のご案内です。唯一といっていいかもしれません。嫉妬や怨念うずまくドロドロ恋愛絵巻の中のコメディパート(!?)です。


 明日も『源氏物語』に来てくれる?


『源氏ツアー』Day6に来てくださり、どうもありがとうございます。


 ✨明日の予定

 Day7 【末摘花】口コミで恋すると有り得るわけで……

 集合時間、集合場所:お気の召すままに

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