Day4  🎶どうやって恋するの?

 今日もお越しくださりありがとうございます。昨日のツアーでも、皆さまからさまざまなお話を聞くことができました。あまりにも今とはかけ離れている家族形態なので、いろいろな感想がありますよね。


 さてさて、昨日の平安トリビア、摩訶不思議平安家族の続きです。一夫多妻制で育った子どもが成人式を迎えたあとのお話ですね。男子側からと女子側からとお話しますね。


 ✈︎✈︎✈︎

 💕恋の仕方(男子編)

【別冊】源氏物語 源氏の世界②恋の仕方


 前回お話したとおり、女子はお出かけできません。じゃあ、どうやって結婚するの? どうやって恋するの? って思うわよね。家の中だけじゃ出会いがないもんね。いるのは家来だけだし、まぁ今ラノベなんかであるお嬢様と執事の恋があるかどうかぐらいよね、敷地内でできる恋なんて。でもその頃は身分制社会だからね、そうはないと思うのよ。なくはないかもしれないけれどね。『源氏物語』でも山ほど恋物語は登場するけれど、家来との恋はなかったと思うわ。


 さて、本題。どうやって恋するか。男子だって女子が外に出てこないんだから出会うチャンスはないわけよ。男子は仕事に出かけるけどね。ボスはもちろん天皇ね。天皇や皇族の方々のご意向に従って、政治を行っていくのよ。

 そういった仕事先で友達もできるし、人付き合いも増える。そうした中で始まるのよ、噂話が。

「うちの娘がね、これが結構可愛くてね」

「いやいや、うちの娘は頭がよくて……」

「よかったらおたくの息子さんと……」

 娘を持つお父さん達はきっとこんなことを話すのよ。今と大して変わらない?


「だれそれさんの娘さん、キレ―なんだってよ」

「オレはあの人の娘さんがめっちゃいいって聞いたぜ?」

 と若い男子も噂話で盛り上がります。こっちも今と変わらないわね。

 ウワサ話は妄想話へと進展し、その子に会ってみたいなと思うようになります。他のヤツも気に入ってるみたいならそいつより先に連絡コンタクトとらないと。


 ここでひとつ注釈。キレ―だと噂をしているお嬢さんの顔を誰も見たことはありません。Day3でもお話したけど、当時家族といえどもべったり一緒には暮らしません。まして年頃の娘には親とはいえ、父親は面と向かって対面もしません。手紙のやりとりをしたり、御簾みす(すだれね)越しにお話するくらい。

 でもいずれは娘を結婚させたいお父さんはそれとなく娘をアピールするわけです。この頃は家などの財産は息子ではなく、娘のものとなるのが一般的なので婿にきてもらって家系と財産を継いでほしいのです。


 さあ、じゃあ気になるその子に会ってみよう! となるんだけど、いきなり会いにもいけないのよ。そこでまずは自分の家来に探ってもらうのよ。相手の女の子のことを。家来には家来の人脈があって人づてにその女の子の家来と連絡をとるのよね。どんなお嬢さんなのか。どんな性格なのか。どんな容姿なのか。付き合っている彼氏はいるのか。口説こうとしてきているヤツはいるのか。などなど。


 さて、女の子の方の家来にもそうしたさぐりが入ってくることになるでしょ。こちらはこちらで調べるのよ。どんな家柄か。お父さんの役職は? 大体同じくらいまで出世をするだろうからね。人柄は? 見た目は? どちらも情報合戦ね。女の子側の家来(女性の場合は女房っていうの、奥さんって意味じゃないからね)がまぁ、この人ならいいんじゃないかと思えば、一家の主(姫のお父さんね)に相談したり、姫さま本人にも打診してみたりするのよ。評判の悪い男子はすでにシャットアウトね。それで気になる男子には彼の家来に「ふみ(手紙)でもどうぞ」と言ってみる。


 許可が出た男子は必死で手紙を書くのよ。まぁラブレターよね。

「噂に聞いた美しいあなたにお逢いしたいです」とか

「ちょ、キミってめっちゃキレ―だってウワサなんだけど、オレたち会わない?」とかね。


 今でもそうだけど、手紙に性格とか意外と出るでしょ。字を見れば優しいのかいい加減なのかとかね。もちろん書いてある内容も本気なのか、興味本位なのか。で、女子側は興味がなければ返事は返さない。もうちょっとお話してみてもいいかな、と思えば返事を出す。文通の始まりね。この時代だから和歌のやりとりとかもするわけよ。だから百人一首にも恋の歌が多いのかもしれないわよね。

 あなたに逢いたいです。逢いたくて逢いたくてどうにかなりそうです、とかってね。そうして何度か手紙をやりとりしてお互いが相手に好意を抱けばようやく会いましょうということになるの。また家来同士が打ち合わせをしていついつの何時になんて設定をする。あ、デートは夜ね。昼間は男子はお仕事してるし。夜に女の子の家に行く。


 家に行くっていってもピンポーンと呼び鈴をならして正門から入っていくわけじゃないのよ、これが。女の子の家来に指示してもらって裏口からこっそりその子の部屋へ。忍んでいくのよね。家の人(お父さんやお母さん)もうっすら知っているけれど、見て見ぬふり。ま、そいつならいいんじゃないかと認めているからね。認めてなければそもそも手紙のやりとりはできないんだろうし。


 ようやくここで姫さまの部屋までたどりつきました。けれどすぐには会えない。というか直接顔を見ることはできないのよ。もどかしいわよね。

 まずは御簾みす越しの対面。お話も姫さまは直接話さず、そばにいる女房が代わりに答えるの。すると、風にのって姫さまの薫きしめた香が漂ってきたり。几帳(布製のカーテン)の隙間からちらっと黒髪が見えたり。楽器の合奏をすることもあるみたい。でまぁ、そのうち打ち解けてくると姫さまが話したりして、やっとのことで直接会えることになり、仲良くなることができるのです。


 朝になる前に男子は家に帰ります。帰っても「疲れた~」と寝るわけにいかないの。後朝きぬぎぬの歌といって彼女に歌を贈ります。この歌を早く贈れば早いほど誠実さを表すんですって。

「今日のデート、めっちゃ楽しかった。また行くね(^_-)-☆」

 今でいえばこんな風にLINEするカンジ?

「アタシもまた来てくれるの待ってるね~」

 なんて女の子も返歌を返します。


 さて、自宅に戻った男子は夜の出来事を思い返します。そう、初めて相手の女の子の顔を見たわけです。人柄は手紙のやりとりでわかってきていただろうけれど、実物の彼女には初めて会ったわけよ。想像以上に綺麗なお姫さまもいたでしょう。残念ながらその反対も。

 男子は3日連続で通うことがその女の子への誠意の証とされるの。雨が降ろうが槍が降ろうが病気になろうが何が何でも3日。だから反対に

「あんま、好みじゃなかったなぁ」

「ま、ケッコンまではなぁ」

 なんていう場合は3日通わない。


 そうして3日通った翌朝に女の子のお父さんからお婿さんと認められるのです。

 ええ、3日付き合っただけで結婚です。どうなんだろね、このシステム。これもまた恋バナで話してみてね。

 公にうちの娘はどこそこのだれそれと結婚しました。うちの婿です。と公表するわけです。ここから通い婚が始まります。



 💕恋の仕方(女子編)

【別冊】源氏物語 源氏の世界⑤好きな男子の探し方


 ここまでは男子がどうやって女子のことを好きになるかを書いたけれど、今回は女子バージョン。お出かけもできない箱入り娘(イマドキこんな表現通じる?)がお気に入りの男子をどうやって探すかのお話。


 学校にも行っていない、友達もいない女の子(お姫さま)はどんな男子がいるのかも知らないの。ここで一番頼りになるのが、身近にいる女房(お付きの女中)かな? 女房には女房のネットワークがあるからそこのウワサ話を姫さまにも流すのね。友達がお仕えしている若君はとっても素敵だとか、カッコいいとか。


 それから自分のお父さんはある程度の官位の役人だから、家へもお客として多くの貴族がやってくるの。彼らの姿を女子達は部屋の中から見ることができたのね。御簾みす(今で言うすだれ)越しにね。それにだれそれは蹴鞠けまり(当時の貴族のたしなみ。今でいう数人でするサッカーのリフティング?)がとても上手だ、とか、だれそれは和歌の名手だ、琴や琵琶がうまいのはだれそれだの噂が飛び交うの。

「あの人、かっこいいわ」

「あら、こっちもイケメン」

「あの方の琴が聞いてみたいわ」

 なんて思うこともあったでしょう。けれども女性の側からアクションをおこすことはできないのよね。お父さんに「あの人のことが気になるんだけど」とうっすら伝えるのがやっとだったかもしれないわね。それも人づてに。あくまでもうっすらと。お父さんが娘につりあうふさわしい相手だと認めれば、お父さん経由で男子に話を持ち込むことはあったかもしれないわよね。

「いや、うちの娘がね、これが結構キレ―でね、年頃なんだよねぇ」

 なぁんてつぶやいてみるのです。カレの前で。


 そしてそれとなく宴会などを開いて若い男子を家に呼ぶのです。


 やれ花が咲いただの、やれからの珍しいものを取り寄せただの、特に何もないなら月でも見るべ? だとか、もうなんでもいいからとにかく飲もうぜ、だとかで宴会が行われるのです。


 そこで行われる舞や歌などを見て(また御簾ごしね)、素敵な人だわとうっとりする。

 もしくは、お昼間に行われる蹴鞠けまり(今でいう大人数でするリフティング大会)でカッコいいわぁとときめいてみたり。


 今だって歌って踊れるあの大人数のダンスグループやリフティングが得意で運動神経のいいサッカー選手はもてるでしょ? 1000年前も同じこと。


 お父さんもこの男だったらいいかな、と認めたのなら

「娘にラブレターでも書いてみる?」

 とけしかけてみる。もしくは

「年寄りは夜が早くてね」

 なぁんて言いながら自分は寝殿(主の寝室)に引き上げて、暗に娘の部屋に行ってもいいよと促してみる。


 男子の方もまぁつきあってみてもいいのかな、と思えばラブレターや和歌を贈る。こうして彼女との文通のお付き合いが始まるのかな。


 まぁ、想像もつかないくらいに回りくどい。見知らぬ人とでも簡単にチャットができるようになった現代とはあたりまえだけれど、比べようにならない世界よね。でも、そうした回りくどい行程を経ながら恋しい気持ちが増幅していくのかもしれないわよね。

「そこまで焦らされるなら絶対会ってやる。彼女を落として見せる!」とか

「そんなにいいコなの? くれるラブレターも可愛いしな」ってね。そしてそんな情熱的な歌がいくつも届けば

「あら、そんなにまで私のことを……」

 とこちらも盛り上がるのかもしれません。あくまでも推測だけどね。


 今の子達には信じられないほどに女子からの好き好きアプローチはできない時代だったのよね。それでも百人一首などを見ていると、恋多き女性はやっぱりいたみたい。どうやってアプローチしたのかしらね? それともいいオンナだから次々男子が言い寄ってきたのかしら?

 源氏物語にもいるのよね、女子から源氏にアプローチした人。夕顔さんがその方です。身分も不釣合いで、まさに眩しく光るような源氏の君に自分から和歌を贈ったの。自分からの押せ押せの恋愛しかしたことのない源氏の君はそりゃあ……、ときめいたでしょうね。




 ✈︎✈︎✈︎


 現代とは全然違う恋愛模様でしたね。好きになるのも、付き合うようになるのもタイヘンですよね。だから盛り上がるということもあるかもしれませんけれどね。


 そして女子からの恋は想像もつかないくらい(したくないくらい)難しい時代のようです。出会う機会が少ないし、仮に素敵な男子を見かけてたりウワサを聞いても自分からはアプローチができないのです。常に受け身。なんとか自分に興味を持ってもらえるように周りに協力してもらうくらいしかできません。

 でも、自分からは告白できないから相手から告白させるように持っていくなんてそれはそれで恋の上級者なのかしら? 


 皆さんは告白したい派ですか? 告白されたい派? 

 それとも策略をめぐらして告白派?

 積極的に攻める派? 押しては引いて焦れさせる派?

 現代はどの派閥(!?)もオッケーですもんね。男子も。女子も。

 いい時代です。


 そんなこんなで結婚したあとも今とは全然違います。続きは明日のツアーにて。


 明日も『源氏物語』に行こうね?


 今日も『源氏ツアー』Day4に来てくださり、どうもありがとうございます。



 ✨明日の予定

 Day5 通い婚ってナニ?

 集合時間、集合場所:いつもどおり

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