9 生と死の狭間にて

 ぴとっ、と水滴が地面に落ちる音が耳に心地よい。

 水は石を削れるという。

 同じところに、ずっと、ずっと、落ち続けることで、穴を開けることさえ可能なのだとか。

 本当かな?

 私の思いは、エデンツァの心を少しでも変形させることができたのだろうか。

 そうだったら、いいな。

 そうだったら、私が生きた理由は、満たされる。


「る」


 私の心の声に、男の声が重なった。

 嫌悪感がある。

 パトルシアンの声。

 なんで来たの? 知ってるんでしょ、ミノトールがいること。

 死に急ぐのが趣味なのかな。

 自分を殺そうとした人間を、殺されるかもしれないのに呼び止めるなんて、正気の沙汰じゃない。

 大変だな、リズミー。


「イシュベル」


 最後に私の名前を呼んだのがパトルシアンだなんて、恨むよ、この物語。

 ──ああ、そうだ。

 パトルシアンよ。私に片手剣を諦めさせた高速の剣術士よ。

 帰ったら、テンに謝っておいて。

 ターバンを汚して、ごめん。

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